E・ウィリアムズ『コロンブスからカストロまで(I)』

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E・ウィリアムズ『コロンブスからカストロまで(I)』読了。副題「カリブ海域史、一四九二‐一九六九」。白状しておくが、自分は最初本書について、マイナーな地域の趣味的な歴史書かと思っていた。副題を見てそう思っていたので、本書を買ったのも、趣味的な好奇心と訳者が川北稔氏だったのが大きい。しかし、中身はまったくちがっていた。そもそも、大航海時代以降のカリブ海域(西インド諸島)というのは、ヨーロッパの収奪の典型である地域で、これ以上の歴史的教訓が得られるところもないだろうという、そんな地域だったのである。実際、本書は地球上のどこに住む人も読むべきであろうという、大変重要な書物なのだ。著者はイギリス植民地下のトリニダード島出身で、オックスフォード大学で学んだ、黒人歴史家であり、トリニダード・トバゴの独立に関与して、首相にまでなった人物であるという。本書はまずカリブ海域史として、大量の資料を駆使した、手堅く精密な歴史書であることは、素人目にも明らかである。著者の経歴から、本書がヨーロッパ諸国(民)の犯罪に敏感であるのは当然のことだが、それは知的なスパイスと正当な怒りが効いているもので、倫理的に強靭であるのが印象的だ。個人的には、歴史の常識であろう、西インド諸島における砂糖黍プランテーションと、奴隷貿易の基礎的な知識が得られただけでも、大収穫だった。これを読むと、ヨーロッパ人の業の深さに慄然とさせられると共に、歴史的責任というものにも必然的に思い及ばないではいられない。もちろん、ヨーロッパ人は殆どが反省・悔恨などしないであろうが、二十世紀にアジアで同様のことをやった日本人は、そのことをどう考えるかを迫られるだろう。正直言って、この問題をどう捉えるべきかは、自分は気持ちが定まらない。個人としてアジア人に糾弾されれば、呆然と立ち尽くすしかない、情けない姿を晒すことになるような気がする。以下第二巻。