串田孫一『歌わない鳥』/大江健三郎『みずから我が涙をぬぐいたまう日』

日曜日。曇。
音楽を聴く。■シューベルト即興曲D.899、アレグレットD.915(ピリス)。ピリスのシューベルトが悪い筈がないと思って聴いてみたら、やはりよかった。予想どおり、素晴らしい。しかし、ピリスはいつ頃から、これほどバランスと深みをもったピアニストになったのか。アレグレットもいい。

Impromptus: Le Voyage Magnifique

Impromptus: Le Voyage Magnifique

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第一番(リヒテル1955)。めずらしい曲をリヒテルが演奏してくれている、貴重なディスクである。音が悪い(強音は殆ど割れている)ので、リヒテル・ファン以外にはちょっと薦めにくいのだが、この曲の再評価を促すような演奏だ。正直言って、録音がよければと残念である。まだ曲としては荒削りなのだが、ラフマニノフらしさは随所に表れている。特に第二楽章は、魅力的ではないか知らん。なお、終楽章はちょっとわからない。ここには天使は不在であるようだ。
Rachmaninov;Piano Cons.1&2`

Rachmaninov;Piano Cons.1&2`


家族で海津のおちょぼさん(千代保稲荷神社)へ参詣。結構人出がある。近くの波乃家にて昼食。その後南下し、三重の多度大社へ。ここは上げ馬神事で有名なところであり、今日は閑散としていた。木曽三川を一気に愛知側へ渡り、西尾張中央道(ゴチャゴチャした、つまらぬ道路)経由で帰宅。
図書館。一冊返し忘れたので、もう一度返しに行く。ついでにカルコス。図書館も本屋も、たくさん人が来ているなあ。やはり日本人は、本を読むのが好きなのか知らん。雑誌で中沢さんの「海洋アースダイバー」を立ち読み。元気が出る。雑誌を買おうか迷って止める。最近、中沢さんの新刊が出ていない。単行本で出すくらいの原稿量はあると思うのだが。

図書館から借りてきた、串田孫一『歌わない鳥』読了。串田孫一はお嬢様向けのポエムなのだが、これだけ続けて読むというのは、何か自分にそうしたくなるところがあるのだろうな。何だろう。
歌わない鳥

歌わない鳥

大江健三郎『みずから我が涙をぬぐいたまう日』読了。表題作と「月の男(ムーン・マン)」の中篇二篇。両者は関連し合っている。で、二作とも読み終ったあと、著者自身の「著者から読者へ」に目を通してびっくりした。著者がこれらを「全力疾走するように力をこめて書いた」と記していたからである。これで、自分は己の小説読解力のなさを痛感したね。これらを読んだ感想は、表題作が「最後の、癌で死にかけている主人公と、その母親との壮絶な否認の応酬はおもしろい」というもので、「ムーン・マン」の方は「出来の悪いファルス」というものだったからだ。著者に云わせると、これらは三島由紀夫自死に対する応答で、それは彼の天皇観に関するものだそうである。そりゃ確かに天皇が主題になっているのはわかるが、こういう小説を読むと、自分の中に天皇に関する関心がほとんどないことに気付かされる。昭和天皇はおじいさんという印象だったし、今の天皇は、震災その他の被災地などによくスポットを当てる、しんどい仕事をされている立派な人、くらいのイメージだからだ。マジですか。それに、これらの小説を、そんなに力を込めて書いたとは…。「大江健三郎、けっこう読ませるな」くらいの気持ちで読んでいたのだが。うーむ…
 もちろん、まだ読んでいない作品もだいぶあるし、これからも大江氏は読み続けていくつもりだが、しかしねえ。まったく、文学音痴といわれても仕方がないだろうな。
みずから我が涙をぬぐいたまう日 (講談社文芸文庫)

みずから我が涙をぬぐいたまう日 (講談社文芸文庫)


何だか、↓こういう暗いことを書くのが嫌になってきた。国を憂うとか、そういうのは自分の柄じゃないね。人間の死亡率は一〇〇%、眉間に皺をよせていてもいなくても死ぬのだから、さっぱりといきたいじゃないか。

また同じようなことを書くが、今の日本の政治的言説のレヴェルの低さは何だろう。自分が勉強不足で、レヴェルが低いのは自覚しているが、それ以下のどうしようもない奴しかいない。まったく、「保守反動」の山崎行太郎氏ではないが、こちらが「ミジメ」になってくるくらいだ。自分は左翼親和性の心性の持ち主だと思っているが、さすがに国を憂うような気持ちになってくる。こんな風では、日本が没落しつつあるのも当然である。学者も政治家もひどいし、マスコミ等は痴呆化している。何の学問的素養もない奴が「反韓」などと言って、恥の上塗りをしている。文学も哲学も知らないような奴らがそんなことを言っても、世界から鼻であしらわれるのがオチだとわからないのか。少なくとも、韓国の方がよほど戦略的なことは疑いない。日本人はそれに、感情的に反発しているだけである。どちらがウワテか、明らかなことではないか。
 まあ、そんなことを言っても仕方がないか。とにかく、自分はレヴェルが低いなりに、考える力を少しでも養おう。