ジジェク『暴力』

曇時々雨。
音楽を聴く。■バッハ:イギリス組曲第三番BWV808、カプリッチョBWV992(グルダ)。BWV992はめずらしい曲。グールドも録音していない筈。■モーツァルト交響曲第三十八番K.504「プラハ」(アバド2006、参照)。この曲にしては軽量級の演奏。アバドは誇張がなく、丁寧な音楽作りだが、ちょっと眠くなって困った。

最近マスコミで、日本の経常収支が赤字になってマズいという意見をよく聞くが、これは「重商主義の誤謬」と云って、経済学的には何の根拠もないらしい。例えばカナダなどは一〇〇年以上貿易赤字らしいが、それでもちゃんと発展してきている。もちろん、反対に経常収支が赤字だったらいいということもない。専門家の解説は、以下にリンクを貼っておく。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38394
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20140228
結局、貿易黒字とは貯蓄が増えると同じことで、貯蓄が増えても一国の経済としては、特によくも悪くもないということのようである。貨幣の「流通量」は、経済に大きな役割をするのだが。実際、日本の貯蓄高はいつでも相当に高かったようだが、それでも長く深刻な不況になった。

図書館から借りてきた、スラヴォイ・ジジェク『暴力』読了。副題「6つの斜めからの省察」。ジジェクは鋭く、いかにも頭がいい。言っていることは(盲目的に云うが)尽く正しいと云ってもいい。しかし、ちょっと正しすぎるような気もする。何もかもが快刀乱麻を断つ如く分析され、批評される。本当に世界は、こんなに「単純」なのか。カントやヘーゲルマルクスフロイトラカンで、尽く説明し得るのか。自分は頭がよくないので、何となく不審に思うだけであるが。
 それから蛇足だけれど、著者の仏教理解は、日本人の大部分と同じく、とても浅はかなものである。また、著者の称揚する「無神論」者とは、まさしく日本人がそうであろうところのものであると思われる。だいたい、「暴力論」である本書に、日本について述べられているところが実質的に零であることは、興味深い。これは、著者が日本に関心がないだけではないだろう。おもしろいことである。
 しかし、以上とは関係がないが、最近の日本の政治的言説はひどい。ジジェクっぽく云うと、それら現代日本の政治的言説は、「現実」ではなく、ラカン的な「現実界」に過ぎないとも云えよう。いま本当に政治的であろうとすれば、流通する一切の政治的言説から、身を引き離す必要があるのかも知れない。

暴力 6つの斜めからの省察

暴力 6つの斜めからの省察