汎関数の表現

(定理)∨はK上の有限次元ベクトル空間であり、退化していないスカラー※注)をもっているとする。このとき、汎関数L:∨→Kが与えられたとすると、すべての w∈∨ に対して
   L(w)=<v,w>
となる、ただ一つの元 v∈∨が存在する。
(証明)ある v∈∨に関して、L[v]という形をしている∨上のすべての汎関数の集合を考える。零汎関数はこの形であり、また汎関数は線形だからすなわち
   L[v1]+L[v2]=L[v1+v2], L[cv]=cL[v]  (c∈K)
となるので、この集合は双対空間*の部分空間である。さらに、∨の基底を {v1,…,vn} とすると、L[v1],…,L[vn]は一次独立である(★)。したがって、L[v]の形の汎関数の集合は∨*と同じ次元だから、∨*に等しい。証明終。
 このような退化していないスカラー積に関して、上のような v∈∨は、汎関数Lを表現するという。


(★)を証明しよう。xi∈Kとすると、もし
   x1L[v1]+…+xnL[vn]=0
ならば、すべての w∈∨に対して
   (左辺)=L[x1v1]+…+L[xnvn]=L[x1v1+…+xnvn]
       =< x1v1+…+xnvn, w >=0
となるが、スカラー積が退化していないことより、x1v1+…+xnvn=0 が言える。よって、{v1,…,vn} は基底であるから、x1=…=xn=0。証明終。


※注  は、ここでは∨上のスカラー積であって、双対空間の元φによってつくられる <φ,v> とはちがうので注意。また、「退化していない」スカラー積とは、「v∈∨のとき、すべての w∈∨に対して =0 ならば、v=Oである」というようなもの。


(例)ベクトル空間∨=Knを考える。これは普通のドット積(内積)X・Y=x1y1+…+xnyn をもち、これは退化していない。このとき上の定理より、φ:∨→Kが線形写像なら、すべてのW∈Knに対してφ(W)=A・Wであるただ一つのベクトルA∈Knが存在する。これは、汎関数φをベクトルAで表現していることに他ならない。
 また、∨を n 次元ユークリッド空間とし、f:∨→Rを微分可能な関数だとする。∨上には普通のドット積(内積)を考えることができる。X∈∨における f の微分を、線形写像 d:∨→Rと定義するならば、このドット積に関して汎関数Lを表現するベクトルを、Xにおける f の勾配といい、これを(grad f)(X)乃至 ∇f(X)と書く。このとき、すべてのW∈∨に関して
    d(W)=∇f(X)・W
となるわけである。