岩城けい『さようなら、オレンジ』/前野昌弘『よくわかる 量子力学』

晴。
音楽を聴く。■ベートーヴェンピアノ三重奏曲第五番op.70-1「幽霊」(アルゲリッチ、カピュソン、マイスキーLive2007)。好演。■ハイドン交響曲第九十二番(チェリビダッケ)。癒し系なのだが、どうもいま一つ。

図書館から借りてきた、岩城けいさようなら、オレンジ』読了。ブログ「水に流して」の書評で知り、読んでみた。そのブログでは小説の構造に特に光を当てていたように覚えているが(後で読み返してみる)、自分は小説の構造は、うまく利いているとは思いはしたけれど、それほど気にならなかった。異国語の中で暮らすということ、難民、ジェンダー、まあそういう厄介なことを扱いながら、しかしシンプルに小説を読む楽しみを与えてくれる、真面目な作品だと思う。自分の読みはあまりに単純素朴だとは知っているけれど、サリマの下の息子が本当に彼女のものになったところは、じんと心に沁みた。まあそんな素朴な読みである。ラストで小説の構造がはっきりするところは、ああそうだったのかと、まあだいたい予想していたところだった。そんなに「大小説」というものではなしに、もう一度いうけれど、真面目でいい小説なのだと思います。
※追記 「水に流して」を読み返してみた(参照)。非常に優れた批評で、これに比べれば、予想どおり、自分の読みはあまりにも素朴すぎると再確認した。ここにあるものは、自分の読後感(感動)とは異質である。まあ、批評は感動は直接は扱わないものなのかも知れない。なお、ここで見るかぎり、上野千鶴子による書評は相当にいいものなのではないか。ちょっと読んでみたくなる。(あ、ネットで読めるんだ(参照)。これは凄い批評だ。脱帽。)

さようなら、オレンジ (単行本)

さようなら、オレンジ (単行本)

前野昌弘『よくわかる 量子力学』にざっと目を通す。と云っても、かなり注意して読んだ。量子力学の入門書で、じつにいい本である。まず、前期量子論が、これでもかというくらいみっちりと解説してあって、これが為になるのだなあ。多くの量子力学の教科書では、前期量子論はほんの導入に使われるだけで、いきなり(擬似)公理的に始まることが多いけれど、やはりしっかり理解しておくべきだということを痛感させられた。また、量子力学古典力学と接続するために、「波束」という概念が必要なのだが、これについても洵に詳しい。はっきり云って、自分は波束というものがきちんとわかっていなかったです*1
 全体的に見て、とにかく読者が躓きそうなとところは徹底して丁寧に書いてあるので、今までの本でどうも量子力学がよくわからないという人には、是非お薦めである。数式の扱いがじつに親切で、特に独習者にはこれ以上役に立つ本はないと、そう言い切りたい気持ちだ。内容も、題名からは予想できないくらい充実しているので、優秀な人でも、教えられるところはあるのではないか。自分は恐らく、これからも何度も本書を繙くと思う。
 なお、本書は「とね日記」さんのところで知りました。詳しい内容は、そちらのブログ記事(参照)を参考にして頂きたい。じつは本書の前に、前野先生の同じシリーズの「解析力学」を読み始めていたのだが、こちらを先に読み終ってしまった。本当に独習者には強い味方で、すっかり前野先生のファンになってしまいました。力学、電磁気学の本も読もうと思っています。
よくわかる量子力学

よくわかる量子力学

*1:量子力学の粒子性と波動性で、粒子性というものは波束に過ぎないのである。これは、E=hν でのエネルギー単位の粒子性とはちがう意味である。