小此木啓吾、河合隼雄『フロイトとユング』

晴。
小此木啓吾河合隼雄の対談集『フロイトユング』読了。近頃はフロイトはあまり言及されなくなってきているし、ユングはさらにである。そうした中で、三十年以上前に出された本をいま文庫化するというのは、どういう判断なのか知らないが、フロイトユングもとても面白いと思う(というのは危険思想である)自分は、本書は楽しく読んだ。とりわけ第五章の「文化と社会」は日本と西欧の一種の比較文化論であるが、おお自分のことが書いてあると感じたほど、個人的にためになった。河合氏の、日本は母性社会であるという説も、以前からよく読んできたが、本書では殊によく腑に落ちた。本書の内容は、今でこそさほど抵抗なく理解できる面があると思われるが、原本が出された当時は、まだなかなか理解されるのがむずかしかったであろうと推察される。その頃から比べれば、日本人もだいぶ変った。本書は、そのようなこともある程度予想していたようにさえ見える。もちろん本書は、フロイトユングへの入門書としても未だに使えるであろう。しかし、冒頭にも書いたが、現代の心の理解は、フロイトユングどころではなく、心をあたかも「モノ」のように扱って、「科学的」になされるという風潮だと見える。こうしてフロイトユングが忘れられていくのは、果していいことなのか、どうか。


音楽を聴く。■バッハ:パルティータ第二番(グールド)。■シューベルトピアノ五重奏曲イ長調「ます」(リヒテルボロディンSQのメンバー)。