雨のち曇。
室生犀星『蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ』読了。犀星って何となく美しい文章を書く人だという印象であったが、これはまたなんという凄惨だろう。「蜜のあわれ」はこまっしゃくれた金魚の話であるが、ってなんだがわからないだろうが、娘なのかよくわからない金魚との会話だけで成立している。主人公(犀星を思わせる)が過去に関係のあった女が幽霊で出てきたり、そもそも愛人のような口を利く小娘風の金魚というのが謎だ。不透明な何かを感じさせる、これは傑作と云ってもいいだろう。
「われは…」の方は、老齢の作家(これも犀星らしい)の御叱呼が出ないという話から、入院の時のまったく身も蓋もないエピソードやら心の動きやらが、隠すことなくリアルに(と思われる)描写されていて、凄惨だ。死に近づきつつある様子が、私小説風に、本当に「やぶれかぶれ」に書かれている。これも犀星だとは。傑作だか何だかわからないが、まさしく文学にちがいない。
蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ (講談社文芸文庫)
- 作者: 室生犀星,久保忠夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/04/28
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 35回
- この商品を含むブログ (72件) を見る
解説は宇野常寛だが、彼の文章は自分には何を言っているかわからないけれど(自分の理解した限りでは、彼は自意識過剰なのでは)、文章の強度は素晴らしいので、宇野氏は云われるだけのことはあると思った。かの下らない『日本文化の論点』の著者とは、ちょっと思えないくらいである。
- 作者: 山崎ナオコーラ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
音楽を聴く。■ベートーヴェン:交響曲第六番(シャイー)。速いテンポの、元気な演奏。正直言って、ちょっとデリカシーを欠くなあと聴いていて思っていたのだが、終楽章は繊細で素晴らしかった。ほう、こういう演奏もするのか、と認識を新たにした次第。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第九番K.311、幻想曲K.397(ブレンデル)。ブレンデルはさすがだ。やはり巨匠の名にふさわしい。ちょっと聴くだけでは平凡に思われるのに。
#
県立図書館。マンデリシュターム、ルネ・シャール、井筒俊彦訳のモッラー・サドラーなど。