ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(下)』

曇。まだ半袖のTシャツを着ている。いつまで暑いんだ。
レンタル店。

図書館から借りてきた、ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(下)』読了。カーネマンは一応心理学者だが、ノーベル経済学賞を受賞している。下巻には、その理由となった、有名な「プロスペクト理論」の説明がある。これは、ベルヌーイの「期待効用理論」に対抗する、シンプルで奥深い理論だ。著者自身が、簡潔に説明している。次のシナリオを考えよう。

今日、ジャックとジルはどちらも五〇〇万ダカット持っています。
昨日、ジャックは一〇〇万ダカット、ジルは九〇〇万ダカット持っていました。
今日二人は同じように幸せでしょうか。

ベルヌーイの理論では、富の効用だけを考えるので、今日同じだけ持っている二人は、同じように幸せである。しかし実際は、誰が考えても、ジャックの方が幸せだと判断するだろう。このように、ここで二人が元々持っていた金額のことを「参照点」と呼び、これを考慮にいれるのが「プロスペクト理論」である。何とも単純な話だが、これまでは経済学には、このような発想はなかったのだ。これも驚くべきことだが、何にせよコロンブスの卵ということはあるものだ。期待効用理論は経済学で既に活躍していたのに。
 下巻はこれだけではないが、上巻の方が中身は濃いだろう。心理学における「システム1」(直感)と「システム2」(意識的・反省的思考)の区別。これも単純な発想だが、この区別で多くの思考過程が説明できる。また、合理的経済人(エコン)と普通の人間(ヒューマン)の区別。経済学は人類が「エコン」だと仮定して組み立てられているが、実際は我々は、常に合理的に判断するわけではない。その他、平均への回帰。等々。
 本書はまた、とてもわかりやすく、読みやすい。エンターテイメントと云えるほど惹き付けられる。理論の提唱者がこれほどの筆力を持っているとは、また稀有なことである。本書はこれだけでなく、小規模な独創的思考は山のようにある。創造的な学者とは、こういう人(たち)を云うのだろう。是非、多くの人に読んでもらいたい本だと思う。

ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?

ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?


音楽を聴く。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第八番K.310(ブレンデル)。普通にいい。かっちりとした音で、オーソドックスに弾かれた演奏。
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番&第9番&第18番

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番&第9番&第18番


2013年夏・秋_79