大岡昇平『成城だより(上)』

晴。涼しい。
大岡昇平『成城だより(上)』読了。このところ、何を読んでも面白くて困る(?)。大岡昇平は、学生のとき文庫本を中心にかなり読んだ。やはり『俘虜記』と『レイテ戦記』がインパクトが大きく、今でもだいたい覚えている。『花影』という花柳小説もあったな。『野火』は有名だが、あまりよく覚えていなくて、ただ丸谷才一の『文章読本』で、『野火』のレトリックの詳細な分析があったのは忘れられない。それから、スタンダールの『パルムの僧院』の翻訳は忘れてはいけないね。
 で、本書であるが、七十歳を超えていると思われる著者の日記だけれども、恐るべき知的放蕩である。小説にかぎらず、思想書であろうがポピュラー音楽であろうが映画であろうがマンガであろうが、気になったものは決して放っておかないのが凄い。現代数学まで手を伸ばしている。富永太郎の全集を片付かないといけないのに、売られた喧嘩を放っておかずに、手厳しい一撃を忘れずに見舞ったり(これを読むと、著名な作家・評論家・学者その他でも、姑息なことをする奴が多いことがわかってしまう)、頻繁に本屋へ行って学術書を買ってみたり、電話を掛けまくってみたりして忙しい。実際、忙しすぎるのではなかろうか。また、文体の密度の高さが尋常でない。今、こんなに高密度の文体を持っている人はいないよ。読んでいて確かに疲れるが、脳みそにガンガンとキックがある。危険といえば危険。飛んでもない爺さんだ。類まれな奇書だな。下巻へ続く。

成城だより 上 (講談社文芸文庫)

成城だより 上 (講談社文芸文庫)


中沢新一x高橋源一郎Ustream
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