文藝別冊『増補新版 澁澤龍彦』/志賀浩二『現代数学への招待』

晴。
妹一家帰る。

文藝別冊『増補新版 澁澤龍彦』をぺらぺら繰る。中沢新一の澁澤論を保存しておきたくて買ったもの。あと、澁澤の奥さんの龍子さんへのインタビューがおもしろかった。その他はさほど興味なし。まあ、後で丁寧に見よう。

志賀浩二『現代数学への招待』読了。副題にもあるとおり、多様体への入門書である。多様体の概念は現代数学では必須のものであるし、物理学においても(ゲージ場など)基本的な道具のひとつになってきている。著者の志賀浩二先生であるが、以前アマゾンのレビューだったか、著者の本はできない学生が、試験前に読んで可をもらうためのものと、ちょっとひどい評があったのを思い出す。それを自分なりに解釈してみると、普通の(?)数学書は、地図のようなもので、数学者になろうというような人は、そこから「風景」を自分で造り上げねばならない。数学がわかるとは、そうした「風景」がわかることで、それは本質的に重要であるが、数学書の多くはあんまり親切でないのである。しかし、我々のような、別に好きで数学をやっているような者には、頭のいい数学者が、数学の織り成す様々な「風景」を道案内して下されば、こんなに楽しいことはない。志賀先生の(数学30講シリーズなど)入門書は、そうした楽しい本なのだ。前にも散々書いてきたが、自分は先生の数学書の大ファンである。小説のように読める数学書というのは、なかなか書けるものではないのである。
 さて、多様体というのは、現代数学における重用さの割には、意外とやさしく(数学的に自然に導入されるという意味)、自分も学生の時に多少勉強していたが、本書の到達点は、まあそこくらいまでである。しかし、こう本書で勉強してみると、自分の理解の浅かったところに気付かされて、冷や汗ものであった。例えば位相空間におけるウリゾーンの定理など、抽象的な位相空間に具体性を導入する定理だというのが本質であるが、そうかなるほどという感じであった。しかしこの簡潔に書かれた定理を読むだけでは、その含蓄はなかなか理解できないであろう。また、多様体における各次元での微分構造の導入ということも、なるほど微分同相写像の表現の問題なのだというのも、目を見開かされた部分である。そんなのは枚挙に遑がない。
 しかし、本書が教科書として使えないというわけではない。数学的な記述が疎かになっているわけではないからだ。ファイバー・バンドルの導入あたりまで記述されているから、初学者には充分だと思う。ここから、さらにステップアップすればいいだろう。僕のようにそんなに優秀でない人には、楽しい本だと思いますよ。