森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』

曇。
音楽を聴く。■モーツァルト:ピアノ協奏曲第二十四番(ポリーニ)。
図書館。予約していた本を受け取る。

森永卓郎『庶民は知らないアベノリスクの真実』読了。どう書こうか迷う。まず、森永さんは長年のリフレ派である。本書でも、このことはまったく変っていない。日銀の金融緩和は、ようやくまともなものになったと高く評価している。自分も、リフレ政策を正しいと信じる点で、森永さんと同じ立場である。
 そして、本書の主張の最重要点の一つが、TPP問題である。個人的なことを言っておけば、自分の元々の考えとして、多くのリフレ派の論客に乗る形で、TPPは自由貿易であるから、悪いはずはないという立場を、朦朧と信奉していたのだった。しかし、以前からどうも納得できていなかったところに、最近堤未果氏の著書『(株) 貧困大国アメリカ』を読んだこともあって、何だかわからなくなってしまった。先に言っておくと、森永さんの立場は、リフレ大賛成、TPP反対である。結局TPPは、今のアメリカと同じように、超格差社会を目指すものだ、という意見である。つまり、金持ちがますます有利に、そうでない大多数はさらなる貧困に、というわけだ。本書の記述は、自分には論理的かつ具体的で、納得できるように思われた。規制緩和でマーケットが大資本の寡占・独占状態になり、零細業者を搾取し、消費者を欺くという、アメリカでの例の構図が、日本でも実現する、というのだ。
 細かいところでは、政府の試算に拠れば、TPPで日本のGDPは3.2兆円増加するという。しかし、これは完全に関税を撤廃したという前提であり、これに10年かければ、1年あたりの成長の押し上げは0.06%で、実際にはほとんど効果がない。また、輸出は増加するが、輸入も同程度増加し、ここでは差し引きほぼ零であるという。だから押し上げ分は、安くなった食料品の需要が増えることに求められるが、皆、食料品が安くなったら、食べる量は(例えば)倍になるんですかね(笑)。
 でも、このような細部も重要だが、TPP賛成派の意見を注意深く聞くと、基本的に農業の壊滅は、そうなるとこそっと認めている人が多い。どのみち現在の農業は問題があるから仕方ないとか、その他の産業が儲かるからいいとか、そういうことを云っているのだ。ここまでくると、価値観の違いとしか云えないだろう。本当にそれでいいのだろうか。
 他にも、本書では、他のリフレ派の人たちとはちがった主張が見られる。例えば森永さんは、円安の効果を重要視する。いや、これは普通の意見かも知れないが、貿易赤字は日本にはよくないというのは、あまり聞かない主張ではあるまいか。普通は、例えばカナダなどはずっと貿易赤字が続いているが、別に問題ないではないか、と反論されるのだが、日本の経済構造では、カナダなどとの比較はできないのではないか。ただ、自分はずぶの素人なので、かかる判断はできない。
 正直言えば、もうすぐ参議院選挙だが、自民党は圧勝するだろう。そこで安倍政権が本性をむき出しにするかは、天のみぞ知る。自分は、かなり悲観的である。その感じが誤っていることを願う。