河合隼雄『日本人の心を解く』/山野良一『子どもの最貧国・日本』

曇。
音楽を聴く。■ショパンマズルカop.33, op.41(ルイサダ旧盤)。

河合隼雄『日本人の心を解く』読了。河合俊雄訳。知らぬ間に刊行されていた、「岩波現代全書」なるシリーズの第五弾である。本書は著者が「エラノス会議」で発表した、全五回の講演の翻訳だ。各章の題を記しておけば、第一章「相互浸透」、第二章「明恵夢記における身体」、第三章「日本神話」、第四章「日本の昔話」、第五章「とりかへばや」である。これらに見えるモチーフの多くが、後に著者自身の手で著作に展開されているが、本書に収録された論文は中身が凝縮されていて、これはこれでとても読み応えがある。エラノスでも高い評価を受けていたらしい。個人的には、明恵上人を扱った第二章にとりわけ感銘を受けたし、その他のも、日本人の深層心理を理解していく上で必読とも云えるだろう。欧文で最初に発表されたというのも、問題をクリアにするのに役立っていると思う。
 なお、翻訳であるが、英語のよく出来る方で、訳者の翻訳一般をボロクソに云っている人がいるが、自分は原文と比較することはできないけれども、少なくとも本書は自分には意味もよくとれるし、平明で、原著者の文体の雰囲気もよくでていると思った。

日本人の心を解く――夢・神話・物語の深層へ (岩波現代全書)

日本人の心を解く――夢・神話・物語の深層へ (岩波現代全書)

山野良一『子どもの最貧国・日本』読了。先日読んだ阿部彩『子どもの貧困』(参照)に続き、本書も読んでみた。阿部の本と、事実認識においてさほど異なるところはない。印象的だったのは、本書の中で何度もつぶやかれる、「我が国には子どもの貧困ということについて、認識がない」という類の言葉だった。例えば、OECD のデータでは、日本の子供の貧困率は14.3%と、世界の中でも相当に高い方であるらしい。しかし、日本には子供の貧困に関するデータがほとんどなく、外国の機関に調査を勧められても政府は拒否しているという。つまり公式には、日本には「子供の貧困」は存在しないということになっているらしい。しかし、無知というものは、多くの場合「悪」である。これは政府に限らない。日本のマスコミにも、もちろん日本の大衆にも、そうした認識は乏しいのである。結局そういうところから、阿部の本にもあったが、日本では国家による所得の再配分後に、子供の貧困率が上昇するという驚くべき事態に立ち至っているわけだ。
 本書も中身は充実していて、内容紹介すら大変なくらいなので、この問題に関心のある方は、是非(阿部彩氏の本とともに)本書に目を通されたい。とにかく、事実を知るところから始める他ないのではないか。
子どもの最貧国・日本 (光文社新書)

子どもの最貧国・日本 (光文社新書)