三島由紀夫『アポロの杯』

日曜日。晴。
三島由紀夫『アポロの杯』読了。日記あり、紀行文あり、評論ありの、雑多な集である。書かれた日付も、著者の初期から最晩年に亙る。当り前かも知れないが、凄い才能。小説家について云うのは変かもしれないが、至極頭がいい人だ。日本の古典文学に関する教養も豊富にして身についており、レトリックは華麗、何とも贅沢さを感じさせる。中でも、有名な評論「小説とは何か」には感銘を受けた。著者最晩年の文章であり、「豊饒の海」の第三巻を書き終えた頃に執筆されたようで、後の悲劇を予感させないでもない。三島にしては話があちこちへ飛んで一貫していないのだが、彼の本音と思われる文学観が垣間見られる。澁澤龍彦が書いていた、『遠野物語』で「炭取が廻っている」どうのというのは、この一篇に含まれていたのだな。そう、小説であるからには、炭取はくるくると廻らねばならない。そこは共感する。
 若い小説家は、とにかく三島を読むべきだと思うのだが。そして、そこで自分の才能を見極めた方がいいのではないか?

アポロの杯 (新潮文庫)

アポロの杯 (新潮文庫)


音楽を聴く。■シューマン:ピアノ・ソナタ第二番(リヒテル)。第一楽章冒頭の動機が全四楽章を通じて使い回されるという、緊密な構成を持った曲である。しかし、ちょっと新しさを狙い過ぎで、どこか書法がぎこちなく、シューマンの意欲が空回り気味ではないだろうか。リヒテルの演奏は、作曲者の意図をよく汲んだものになっていると思う。どちらかと言うと、テンポの遅い部分の方がシューマンの美点が出ているのではないか。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第十五番、第十七番(バレンボイム)。特に第十七番の終楽章アレグレットの演奏がいい。