太田浩一『電磁気学の基礎2』

晴。
太田浩一電磁気学の基礎2』にざっと目を通す。第1巻に目を通したとき(参照)にも書いたが、日本語で書かれた電磁気学の教科書としては、最高のものなのではないか。高度なのに本当に親切な本なので、電磁気学を学びたい人は、入門書を読んだら本書を読むことを薦めたい。個人的には、第一五章の「電磁気学と相対論」をとても面白く読んだ。電磁気学が(特殊)相対性理論ときわめて相性がよいことは周知だが、その実例がここには詳しく書いてある。本書によれば、ペイジはクーロンの法則と相対論だけを使って、グラスマン力、ファラデイの法則、そしてすべてのマクスウェル方程式を導いている(1912年)という(p.474)。そしてマクスウェル方程式は、完全に共変形式(微分形式を使って)で書くこともできる。これはきわめて美しい。
 本書によれば、アインシュタイン以前にも、(特殊)相対性理論に肉薄していた物理学者は何人もいた。実際、「ローレンツ変換」の名に残っているローレンツは、電磁気学からの考察を元に、完全に正しい変換式を導いている。アインシュタインと異なっていたのは、複数個の慣性系を、まったく同等のものと見做す飛躍ができなかった。慣性系においてはそれぞれ、異なった時間が流れるのであるが、ローレンツはその内の一つに特権的な立場を与えてしまっていたのである。こういうのが、物理と数学のちがうところだ。数学的にはまったく等しい式なのだが、物理的な解釈が大きくちがっているのである。

電磁気学の基礎〈2〉

電磁気学の基礎〈2〉

追記。本書では、ヘヴィサイドの業績が大きくクローズアップされている。ヘヴィサイドは、今では「ヘヴィサイドの階段関数」に名を残すくらいで、それほど有名な物理学者とは云えないが、太田氏は独自の精査により、忘れかけられていたヘヴィサイドの業績を掘り起こした。本書を読めば、読者は至る所にヘヴィサイドの名を見るだろうし、実際に彼が偉大で独創的な物理学者だったことを認めるだろう。本書の稀有さは、こんなところにも見られるのだ。