ルーカーヌス『内乱(パルサリア)(上)』/福田和也『病気と日本文学』

晴。
音楽を聴く。■バッハ:イギリス組曲第三番(グールド)。突然聴きたくなった。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第三番、第四番(ピリス新盤)。

ルーカーヌス『内乱(パルサリア)(上)』読了。ルーカーヌスの翻訳とは、岩波文庫、やってくれますねえ。また、大西英文氏の凝った訳文がじつに素晴らしい。リズムは現代的だが、古語や希語、詩語を交え、極めて格調の高い訳文に仕上がっている。かかる緊張感を以て古典が訳されるというのは、自分は賞賛して已まない。わかりやすい訳文が主流の今の傾向はもちろんよいのだが、時にはこうした鏤骨の翻訳も読んでみたいもの。あとは、続巻が無事でてくれるのを願うのみです。
 詩人は反カエサルの立場なのだろうが、それなのにカエサルの像はあざやかで、魅力的に描かれている。与えられた試練を、大胆不敵に打ち破っていくカエサル。戦闘の描写なども、現代のエンターテイメントに勝るほど迫力がある。続きが、何とも読みたくなってしまうのだ。

内乱――パルサリア(上) (岩波文庫)

内乱――パルサリア(上) (岩波文庫)

福田和也『病気と日本文学』読了。頗る楽しんだ。本書は講義録であるが、これだけの内容を無造作にやっているとは、さすがである。元教え子が本にしてくれなければ、消えてしまったわけであるから、これには驚かされる。中身は題名どおりで、病気という観点(これは緩やかなものだ)から、日本の近代文学を講じたものだ。管見では、著者は最近はあまり文学批評をやっていないような印象であるが、歴史本もいいけれど、やはり「文芸評論家」としての福田和也が、自分はいちばん好きだ。言うまでもなく、著者は大変な実力者であり、文学とは才能のある者がやるものであるということを、本書ははっきりと示してしまう出来である。できれば、こうした講義録を、もっと出してくれないものだろうか。