山下達郎『OPUS』Disc2, Disc3を聴く

 先日、山下達郎ベスト・アルバム『OPUS』のDisc1を聴いたが、今日は仕事がヒマだったので、家へ帰ってからも含め、続きをまとめて聴いた。いろいろ思うところがあったので、簡単に書いておく。
 まず Disc2 だが、アルバムで云えば『MELODIES』(83)『BIG WAVE』(84)『POCKET MUSIC』(86)『僕の中の少年』(88)『ARTISAN』(91)の五作ということになる。個人的なことを云えば、これらは完全に同時代の音楽として「消費」したので、自分の無意識の中に組み込まれてしまっている。なので、正直言って、聴いていて新鮮さがまったくなかった。「クリスマス・イブ」とか、改めて聴いても確かに名曲ではある。しかし、今聞いてみると、全体的に、音楽づくりのデジタル化にそうとう手こずっているという感じが強くする。『POCKET MUSIC』など、完全にそれだ。それから、『ARTISAN』からたくさん入っているが、じつにバブリーな感じで、学生の頃を思い出してしまった。
 Disc3に入る。達郎自身、この間に断絶があり、アルバムは『COZY』(98)まで出ない。その後は、評判の悪かった『SONORITE』(06)、最近の『Ray Of Hope』(11)と続く。この Disc3 だが、その前とは音楽の印象がだいぶちがう。別のミュージシャンの曲だと云ってもいいくらいだ。リリースされた時の印象は、どうもよくわからないというようなものだったが、今回ベスト盤として聴いてみると、謎だった部分が肯定的に受け止められた。達郎は、何か新しいものを得たようである。それはもしかしたら、Disc2 の「蒼氓」あたりが、break through になったのかも知れない。「ドリーミング・ガール」など好きだし、「ずっと一緒さ」には(ヒミツだが)思わず泣けてしまった。そして、ノスタルジックな「街物語」。悪くない。
 しかし、やはり達郎は『CIRCUS TOWN』(76)『SPACY』(77)『GO AHEAD!』(78)『MOONGLOW』(79)までが究極的で、これ以降は、その天才は失われてしまったのだと評価せざるを得ない。かの名盤『RIDE ON TIME』(80)『FOR YOU』(82)も例外ではない*1。これらですら既に、「非対称的精神」の産物なのであり、偉大ではあるが、天才の輝きではないのだ。それは、最後に Disc1 の「DOWN TOWN」を聴いてみるとはっきりとする。なんという瑞々しい音楽だろう。これは、クラシック音楽の天才たちと比べても、聴き劣りするものではない。
 これが、ずっと達郎を聴き続きてきた一ファンの、とりあえずの結論である。達郎、ずっとありがとう。これからも楽しみにしています。

OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜(初回限定盤)

OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜(初回限定盤)

*1:マウリツィオ・ポリーニのピアノも、偶然であろうが、ほぼ七〇年代と八〇年代の間に画然と断絶がある。そこから、ポリーニのピアノは次第に解体していく。そして、さらにドビュッシーの「十二の練習曲」(92)のディスクとベートーヴェンのピアノ・ソナタ(第十一番、第十二番、「ワルトシュタイン」)のアルバム(97)の間の断絶は決定的で、その後のポリーニは、悪くない演奏ももちろんあるのだが、その演奏はゆっくり崩壊していくのを止められない。