渡辺幹雄『リチャード・ローティ=ポストモダンの魔術師』/ハチャトゥリアンのピアノ小品集

曇のち雨。
渡辺幹雄『リチャード・ローティポストモダンの魔術師』読了。文庫本で600頁に垂んとする力作。ローティは以前読んで、どうも気に入らなかったというか、腹が立つほどだったが、本書を読んで多少認識があらためられた。ローティは「真理はない」とか馬鹿なことをいうのであるけれども、その含蓄はなかなか深いことが納得せられたわけだ。本筋の議論と少しズレるかもしれないが、「エスノセントリズム」という語を肯定的に使えるとは、ちょっと虚を突かれたところである。つまり、誰も自分に与えられた場所からしか出発できないということ。そこから普遍を目指していくしかないのである。何かしら、吉本隆明の「井の中の蛙」の話を思い出させるところがある。
 なお、著者は自分の一つ年上であるようで、かなり優秀だと思う。これからも御活躍を期待したい。
 しかし、デイヴィドソンはやはり読まなければいけないかな。

リチャード・ローティ=ポストモダンの魔術師 (講談社学術文庫)

リチャード・ローティ=ポストモダンの魔術師 (講談社学術文庫)

中公新書の児島襄『太平洋戦争』を読み始めた。特に意識して読み始めたわけではないが、今の時局とつい比較してしまうところがある。我が国の政府は、今の方がはるかに落ち着いている。中国の方は、一見馬鹿な中国人民はともかく、権力の方は不透明だ。あちら側の偶然により、事態はどんな方向にも至るだろう。
 真珠湾奇襲は、偶然とアメリカ側の不手際が重なり*1、また日本のきわめて優秀な攻撃があって、あれほどの大戦果になった。後への影響も考えれば、却って上手く行きすぎたくらいではないか。事前の机上演習では、すべて失敗だったという。

大井和郎の弾く、ハチャトゥリアンのピアノ小品集を聴く。ハチャトゥリアンを聴くのは初めてだが、意外にも叙情的な甘い曲が数々あって、結構気に入った。完全に伝統的な、調性音楽である。大井和郎は自分には凡庸なピアニストに聞こえるが、知らない曲を面白く聴かせてもらったことには感謝したい。
ハチャトゥリアン:ピアノ小品集

ハチャトゥリアン:ピアノ小品集

*1:真珠湾攻撃は最初からアメリカ側は知っていて、わざとそうさせたという説がよく語られるが、その真偽はともかく、アメリカ側の現場は最初から警戒していたし、軍の方は自ら責任をとるということで、アメリカ側からの日本機動部隊への先制攻撃もするつもりだったという。そこまでアメリカ側が準備されていての、日本の大戦果だったわけだ。