由良君美『言語文化のフロンティア』/『コンラッド短篇集』

曇。
由良君美『言語文化のフロンティア』読了。読んでいていろいろなことを思ったが、もっと十九世紀から二十世紀初頭の西欧文化を勉強しないとなと、痛感させられた。ここで生み出された文化遺産は、世界史的に見ても稀有の達成だろう。変な話だが、日本の「文庫本文化」の弱いところが、ここである。文庫本ばかり読んでいる貧しい自分の弱点があからさまになったという感じだ。まあ自分など、博覧強記の著者に比べれば、カスみたいなものではあるが。
 いま流行りの「社会学」がないのは時代を感じさせるが、著者が存命でも、社会学には手を出されなかったような気がする。そこらあたりが、今では古めかしく見えてしまう所以ではあろう。徹底的な「人文系」なのだ。しかし、本当によく読んでおられる。南方熊楠まで守備範囲にしておられるのは、さすがである。著者を「幻想文学」に、過度に結びつけるべきではないと思う。真の意味での、「文化人」という名に値する知識人なのである。それが、滅び行く種族であるにしても。
 しかし、やはりスタイナーは読まなければいけないようだな。

言語文化のフロンティア (1975年)

言語文化のフロンティア (1975年)

コンラッド短篇集』読了。中島賢二編訳。何とも面白いではないか! 「ガスパール・ルイス」は著者が「完全なエンターテイメントを目指した」という作品ということで、確かにメロドラマ(?)と云えばそうなのだけれど、主人公とその妻のあざやかな造形は、エンターテイメントで何が悪いかというようなものである。はっきり言って、ラストには感動しましたね。その他の作品も、じつに読ませる。ポストコロニアル批評とか、そういう賢しらなことをやる気が起きない。アナーキズムを題材にした作品が二編収められており、作者はアナーキズムが嫌いだったそうだが、それでも話はおもしろくなってしまうのだ。背景の土地はそれぞれ世界各地であり、それをうまく利用して効果を上げている。この巧緻さは、我が久生十蘭を思わせるほどだと云うのは、的外れだろうか。モーパッサンモームより上手いくらい。
コンラッド短篇集 (岩波文庫)

コンラッド短篇集 (岩波文庫)