『原典訳 アヴェスター』/森田邦久『科学哲学講義』

曇。
『原典訳 アヴェスター』読了。ゾロアスター教聖典

原典訳 アヴェスター (ちくま学芸文庫)

原典訳 アヴェスター (ちくま学芸文庫)

森田邦久『科学哲学講義』読了。日録に書く。そちらで書かなかったことをちょっと書いておけば、まず本書の「因果関係」についての記述だが、本書で勘違いしていると思われるのは、「因果関係」というのは人間の認識のカテゴリーであって、これはカントの言うとおりであろう。人間の認識は、「原因」と「結果」という思考法を採ってしまうものなのであり、これは物理学でいう「因果関係」と区別されねばならない。古典力学相対性理論も含む)の範囲では、原因と結果というのははっきりしているし、それを覆すような事実はない。量子力学でも、因果性が逆になるようなことはない*1。(エンタングル状態にある粒子が、光速を超えて瞬時に関係することはあるが、今のところは、それで有意味な情報を送れないことがわかっている。)
 また、本書では「科学でも正しいことは言えない」と受け取られかねない記述があるが、これも過度の一般化による誤解であることは明らかだろう。科学で嘘をつくことは簡単であるが、すべての科学が嘘であるとは云えない。もちろん、本書はそのような極端なことは言っていないと思う。ただし、その線引きはむずかしいのであり、個々の事例について判断すべきで、一般的なことは云えないのである。明らかに「疑似科学」でも、それを簡単に証明できないことは往々にしてある。時には、結局は常識に頼らねばならないことも多い。
科学哲学講義 (ちくま新書)

科学哲学講義 (ちくま新書)

*1:なお、量子遅延選択実験の結果は不思議である。因果関係は保存されるのだが、過去に遡って原因が作られるように見える。これなど、人間の把握する「因果関係」と、物理学に云う「因果関係」が背馳するように見える奇妙な例だろう。