アッタール『鳥の言葉』/ケレーニイ、ユング『神話学入門』

晴。
アッタール『鳥の言葉』読了。アッタールは中世のペルシア語詩人で、ペルシア神秘主義詩人の代表者の一人である。有名なルーミーは、彼に多くを負っているとされる。本書はその代表作の一つであり、神秘主義の境地の展開を詩として表現したものだ。表現は比喩をもってなされるために、予想されることであるが、象徴を読み解くとすれば難解であり、読解は読み手の力量が試されることになろう。もちろん自分などには十全に読み解けるはずもないのだが、難解な象徴がわからなくとも、(翻訳ながら)詩としてでも充分に堪能できる。鳥が語るという体裁上、仏教とイスラム神秘主義の大きなちがいはあるが、中沢新一の訳した『鳥の仏教』が何となく思い出されないでもない。本書が「自我消滅(ファナー)」への道を示す以上、仏教と何の(内容的)関係がないとは云えないだろう。
 なお、本書はアッタールの詩作品の本邦初訳だそうである。訳文は、日本語として立派なものだと思う。

鳥の言葉 ペルシア神秘主義比喩物語詩 (東洋文庫)

鳥の言葉 ペルシア神秘主義比喩物語詩 (東洋文庫)

鳥の仏教

鳥の仏教

カール・ケレーニイとカール・グスタフユングの共著『神話学入門』読了。ケレーニイの二本の論考が面白かった。ひとつは「童子神」、もうひとつは「少女神」の題である。「童子神」は、神話に現れる、異様な力をもった幼児についての論考で、ギリシア神話についても考察されるが、北欧神話の方が、説話の「元型」に近いと思われる。ケレーニイは童子神の「顕現の場所が水であるとき、そこに完璧な意味を表わす」と書いているが、彼が「始原児」とも呼ぶこの存在が水と関わるとは、いったいどういうことなのであろうか。ケレーニイの記述をたどっていくと、どうもそれは、子宮内の羊水と関係があるらしい。ターレスは万物は水だと言ったが、始原の水とは羊水なのか。母性と水が関係あることは確かである。海は常に、母なるものであり続けてきた。
神話学入門 (晶文全書)

神話学入門 (晶文全書)