ロナルド・ドーア『金融が乗っ取る世界経済』/ジル・ケペル『中東戦記』

曇。

ロナルド・ドーア『金融が乗っ取る世界経済』読了。がっちりとした学究の本である。さても、「経済の金融化」か。これはもう二十年前からわかっていたことだと思う。今では実体経済は、投機というギャンブルが必要とする、単なる乗り物に過ぎない。例えば本書に拠れば、為替相場一日の「出来高」は三・三兆ドル(二〇〇七年)だったが、二〇〇九年の年間の世界貿易の額は、わずか一二〇億ドルに過ぎない。それだから、いちばん優秀な人材が金融業に行くのは、当然のことである。そして、金融業によって得られる富というのは、もちろんリスクはあるものの、他のあらゆる職業によって得られるものを遥かに超えているのだ。
 本書を読んでいてしきりに思われたのは、グローバル・カジノ資本主義の「精神分析」の必要性である。これは、どのような精神がグローバル・カジノ資本主義を推進するかということではなく、その結果が我々の精神、我々の無意識をどのようにするか、ということである。これはなかなかもって、今まででもあまり手の付けられていなかった問題だと思う。
 それにしても、現代の世界経済というのは複雑すぎて、まったく今の自分の能力を超えていることを痛感せざるを得ない。この対象について、全人的な取り組みというのは、果して可能なのだろうか。かしこい人は是非やってほしい。

ジル・ケペル『中東戦記』読了。この題だと、内容を誤解する人もいるかも知れない。副題の「ポスト9・11時代への政治的ガイド」の方が、内容をよく表している。著者はフランスのイスラム政治学者で、本書は9・11の前後に、彼が実際に中東の様々な地で見たものを、深い学識を背景にしながら書き留めたものである。池内恵の訳文は明晰であり、訳注もきわめて豊富で、訳者の学識も疑いがない。中東やイスラムを生き生きと描いた、滅多にない本だと思う。
中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド (講談社選書メチエ)

中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド (講談社選書メチエ)