ボルヘス『詩という仕事について』

晴。

J・L・ボルヘス『詩という仕事について』読了。ボルヘスの詩論で、原文は英語でなされた講演を収めたものである。自分は詩音痴である上に、ボルヘスの詩の読解が深くて、就いて行くだけでも精一杯というところか。実際、まあボルヘスと比べるのが間違っているのだが、引用される英詩(ほとんど英詩である)の自分の読みの浅さには、つくづく情けなくなってしまった。とまあ、それは措いておくと、これはいかにもボルヘスらしい本である。すべては隠喩だ、と。また、第四章の「言葉の調べと翻訳」は、独特の翻訳観がきわめて興味深い。ボルヘスの論述を暴力的に要約してしまえば、逐語訳というのは誤訳であるが、それだからこそ新しさと美が宿ることがある、ということである。例えば有名なフィッツジェラルドによるオマル・ハイヤームの翻訳は、英詩なら許されない表現が、翻訳ということで許されたために、新たな美を獲得した、というわけだ。なるほどと思わざるを得ないではないか。
 ちょっと個人的なことだが、自分は小説を書こうとはまったく思わないけれども、昔から翻訳はやってみたかったのだった。結局、語学力の無さもあるし、それに以前は文体が固定できなくて、とても翻訳など不可能だった。今でも、ボルヘスなぞを読んでいると、(無理だが)サー・トマス・ブラウン等を訳してみたい気が起きる。澁澤龍彦がやっていればなあ、とは思うのだが。

詩という仕事について (岩波文庫)

詩という仕事について (岩波文庫)

The Major Works: Religio Medici Hydrotophia The Garden Cyprus Letter Friend chrn Morals (Penguin Classics)

The Major Works: Religio Medici Hydrotophia The Garden Cyprus Letter Friend chrn Morals (Penguin Classics)


リヒテルの弾く、モーツァルトピアノソナタK.310を聴く。パリ滞在中に作曲された、モーツァルトピアノソナタの中でも最もシリアスな曲である。この滞在中にモーツァルトは、同行した母親を亡くしており、そのことが曲に影を落としていないとは信じられない。演奏はリヒテル晩年のライブ録音で、どの楽章も始めはちょっとおずおずとした入り方であるが、興が乗ってくるとやはり聴き手を掴んで離さない。暗いデモーニッシュな力がこちらに食い込んでくる。なんだかんだ言って、アラウ晩年の録音と共に、この曲の最高の演奏のひとつだと思う。
Mozart: Piano Sonatas K282,310 & 545

Mozart: Piano Sonatas K282,310 & 545