晴。
小坂井敏晶『増補 民族という虚構』読了。本書は名著と云ってよいだろう。「民族」は虚構であるが、虚構であることが重要である、という問題意識から、認知科学や認識論までが援用される、きわめて緻密でクリアな論述が展開される。認知論などは、それだけ独立させられるほどの見事さだ。しかし正直なところ、虚構の虚構性を認めてしまってメタ論理を展開するのは、仏教で悟りと間違えられる、意識状態の変容への固着に似て、個人的にいい気分にはなれなかった。やはり、そこからさらに、「それでも民族は虚構である」と戻ってこなければならないような気がした。でも、あとがきで著者はまさしく仏教に言及し、「空即是色」に力点を置いたと述べておられるのを読むと、何もかも承知の上なのだと納得した。いずれにせよ、「人間は合理的な動物ではなく、合理化する動物なのである」(p.135)とは深い言葉である。単純に一刀両断などできない、さらに熟考したい名著だ。
※三中信宏氏の書評(参照)を読んだ。当り前だが、自分の読書感想文などとは違う、きちんとした書評である。できれば本書の「勇み足」や「言い過ぎ」を、はっきりと展開していただけると、素人には参考になるのだが。
- 作者: 小坂井敏晶
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2011/05/12
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
- 作者: 原子力資料情報室
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2002/12/20
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 89回
- この商品を含むブログ (11件) を見る