堀江敏幸『未見坂』/ポール・モラン『シャネル』/小林、廣瀬、佐藤『解析序説』

休日。晴。
十一時間くらい寝て、我ながら呆れた。なんとももう最近、怠惰。
堀江敏幸『未見坂』読了。いつもながら、上手すぎるくらい上手い。自分はいま田舎(郊外)住まいなのだが、田舎って本来こういうものなのかなと思う。もっと退屈で、もっとさびれ、もっと遣り切れないような気がする。もちろん、そういうところもちゃんと描いてありはするが。

未見坂 (新潮文庫)

未見坂 (新潮文庫)

ポール・モラン『シャネル』読了。シャネルの語りをモーラン(モラン)が纏めたものである。山田登世子の洒落た翻訳もあって、モーランの筆が冴えている。貧乏なアヴァンギャルドたちとの友情と、豪奢な社交界の双方が描かれていて、溜息が出そうだ。二十世紀初頭のパリというのは、洵に不思議な時空である。本書に出てくるシャネルの周りだけでも、ピカソコクトー、ディアギレフ、ストラヴィンスキー、六人組、コレットその他、その他。貴族たち、とりわけウェストミンスター公。今では世界のどこでも、こんな空間はもう存在しない。
シャネル―人生を語る (中公文庫)

シャネル―人生を語る (中公文庫)

小林龍一、廣瀬健、佐藤總夫の共著『解析序説』にざっと目を通す。丁寧に書かれているし、差分方程式を扱っているのがユニーク。
解析序説 (ちくま学芸文庫)

解析序説 (ちくま学芸文庫)


つくづく思う。碌に考える力もないくせに、何についてでも意見を言ってみるという人が多数になると、本当に怖ろしいと。それは自分の意見ではない、他の誰かの意見なのだということが、わからない。それは仕方のないことなのである、自分のまったくオリジナルな意見などないのだが、そのことをよくわかった上で、「自分の」意見というものを、考えねばならないのだ。考える力をつけるというのは洵に至難だということを、この状況に際し、肝に命じておくべきだと思う。開高健の言だったか、どうして荘重に論じ、幼稚に糾弾ばかりしているのか。いまやそれは「知識人」だけでなく、大衆がそうである。