プリーモ・レーヴィ『休戦』/押井守監督『イノセンス』/辻井伸行の弾くラフマニノフ

細雨。
レンタル店。
プリーモ・レーヴィ『休戦』読了。奇跡的にアウシュヴィッツを生き延びたイタリアのユダヤ人が、ロシアを経由して、これまた奇跡的にイタリアへ帰り着くまでの記録。艱難辛苦という言葉でも足りないほどの体験なのだが、途中、まわりには、どんな状態になっても、しぶとく生き延びようとする人間が必ずいるのだった。こういう中では、人を騙すことなど何とも思っておらず、一文無しでもきっとさまざまの取引、商売をしてみせる人間が、逆説的にも、生き生きと明るく「人間らしく」見えてくるというのは面白い。

休戦 (岩波文庫)

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押井守監督のアニメ『イノセンス』のDVDを観る。劇場で公開されたときは、あまり高く評価しない人が少なくなかったように覚えているが、大満足だった。サイバーパンクは以前から好きで、前作はきちんと映画館で観たのだけれども、最近は映画館から足が遠のいていたのだ。なんといっても、映像の美しさは無類である。映像の近未来のアジア風である、SF的細部がいちばんの魅力で、堪能させられた。筋書きをわざと分り難くくしているのも、過度に事件の背後を説明しない点、原作の士郎正宗っぽくてよい。誇張して云えば、ストーリーなんかもうどうでもいいくらい、それほどの映像の美しさだった。いやほんと、最近は映画を観ていなかったので、(DVDでも)それだけで楽しかった。
イノセンス スタンダード版 [DVD]

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辻井伸行の弾くラフマニノフを聴く。曲はピアノ協奏曲第二番。一言でいえば、必要なだけのことはこなしているが、一流の演奏というには充分でない。この曲は技術を要求されるが、まず、その部分で迫力がない。特に最強音が弱すぎる。第二楽章は表面的に音を鳴らしているだけで、複雑な苦味のようなものが出ていない。これでは甘ったるいだけだ。終楽章も魔術的でない。おおよそ、ヴァン・クライバーン・コンクール優勝のときのよさが、あまり感じられない演奏だ。まあ、この曲を弾くには、まだ若すぎると云うべきかも知れない。なお、指揮者である佐渡裕の音楽づくりは、きっちりオーケストラを鳴らして、なかなか悪くない。
※追記  あまり否定的なことを書いたので、もう一度聴き直してみたら、印象はだいぶ変った、というか、辻井が何をしたいか分ったような気がする。この演奏は、甘ったるい曲を甘く甘くやってみた、ということだと思う。第二楽章の最後の方など、耽美的なのが効果を発揮していた。そして、若いのにとても熟れている。とにかく、辻井には、賛否は問われるだろうが、はっきりとした個性がある。将来、彼が日本の至宝になっても、自分は驚かない。
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(DVD付)

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