『ゲーテ地質学論集・鉱物篇』/森銑三『落葉籠(上)』

曇。
ゲーテ地質学論集・鉱物篇』読了。木村直司氏の編訳に成るゲーテの自然科学論集も、『色彩論』『形態学論集・植物篇』『形態学論集・動物篇』に続いて四冊目となった。続巻として『気象篇』も予定されている。前にも書いたが、ゲーテの自然科学論集を、しかも文庫で出すとは、信じ難いほど素晴しい仕事である。こうなると、日本の翻訳文化の質の高さを云わざるを得ないほどだ。
 さて、本書は「鉱物篇」であり、ゲーテは当時の鉱物学、地質学の用語を鏤めて書いているといえば、一見無味乾燥な内容かとも思われかねないのだが、実際はそうでもないのである。ゲーテは自然科学の用語を用いながら、その心は、至るところで想像力の全体性を回復しようと働く。詩人と自然科学者が、渾然一体となっているのだ。中沢新一風にいうと、ゲーテの心中では、「神話的想像力」が生き生きと活動していて、それが時折、自然科学的な記述の中に迸り出てくるのである。科学論文というのは基本的に読み捨てられるものであるが、ゲーテの記述はそのおかげで、たとえ素人っぽくても、時代遅れになっても、ある種の精神の渇を癒すようなものになっている。現代の科学ではこのような試みは許されないが、それならそれで、神話的想像力が活動できる空間を作るのは、現代にあって必須になっていることなのだ。

森銑三『落葉籠(上)』読了。江戸や明治は遠くなったなあという印象。自分に学がないのがよくわかる。
落葉籠〈上〉 (中公文庫)

落葉籠〈上〉 (中公文庫)