池澤夏樹

池澤夏樹南鳥島特別航路』(isbn:4101318123)読了。日本列島の自然を訪ねて、普通ではちょっと行きにくいようなところへ行っている旅の記録。ここ暫く枕頭の書としていたもので、自然の香りが漂ってくるような本だ。本の題名にもなっている「南鳥島特別航路」や、「雨竜沼、湿原の五千年」の章が、浮世離れしていて特にいい。
「かつて山暮らしは一つの文化だった。山菜の採りかたや時期、採ったものの処理、狩の技術、木の実の食べかた(クルミやクリはそのまま食べられるが、アクの強いトチなどは手間をかけてアク抜きをしなければならない)。夏は炭焼き、渓流のイワナ釣り、秋になればキノコ採り。ブナの林は実に多くの実りを用意して人間と動物たちを養ってきた。そういうものすべてが失われてしまった。それどころか山そのものがなくなろうとしている。古いものが消えてゆくことを単なるノスタルジアから哀惜しているわけではない。千年がかりで作られた知識の体系が失われようとしているのは、ちょうど大きな図書館が燃えているのを見るようなもので、いかにももったいないと思うのだ。」