津原泰水『11 eleven』

曇。

NML で音楽を聴く。■バッハのパルティータ第一番 BWV825 で、ピアノはシェン・ユエン(NMLCD)。■モーツァルトのピアノ・ソナタ第四番 K.282 で、ピアノはレオン・マッコウリー(NMLCD)。■ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲第十一番 op.122 で、演奏はフィッツウィリアム弦楽四重奏団NMLCD)。■バルトークの「ラプソディ」 op.1 で、ピアノはゾルターン・コチシュ、指揮はイヴァン・フィッシャー、ブダペスト祝祭管弦楽団NML)。コチシュのバルトークはもっとも見事なバルトーク演奏のひとつであることは疑いないのだけれど、これで完璧かというとまだ自分にはよくわからない。もっと聴かないといけないな。

Bartok;Early Piano Works

Bartok;Early Piano Works

コチシュは NML でたくさん聴ける。こりゃ宝物だ。■ベートーヴェンピアノ三重奏曲第三番 op.1-3 で、演奏はトリオ・コン・ブリオ・コペンハーゲンNML)。おー、これはカッコいいたまらん。これがベートーヴェンの作品1だザマーミロという感じ。いまでもわかっている人たちはいるのだな。これはピアノ・トリオ全集になるのかな。楽しみだ。
Beethoven: Piano Trios, Vol. 3

Beethoven: Piano Trios, Vol. 3

 
■ベリオの「水のクラヴィア」、武満徹の「雨の樹 素描 II」、フォーレ舟歌第五番 op.66、ラヴェルの「水の戯れ」、アルベニスの「イベリア」第二巻 ~ 「アルメリア」、リストの「巡礼の年第三年」 ~ 第四番「エステ荘の噴水」、ヤナーチェクの「霧の中で」 ~ 第一曲アンダンテ、ドビュッシー前奏曲集第一巻 ~ 第十番「沈める寺」で、ピアノはエレーヌ・グリモーNML)。アルバム「Water」で、2014年12月のライブ録音。CD 発売に際し、ニティン・ソーニー(1964-)の電子音楽がすべての曲間に挿入されている。グリモーさんはポリーニが好きなのだが、これを聴く限り、ポリーニのように指を圧倒的な知性のコントロール下において完璧を意図するような演奏とは本質的にちがい、どこかでヴィルトゥオーゾ的な爆発に身を委ねていくところのある、むしろ反知性的、本能的ともいうべきピアニストだと思う。だから、「水の戯れ」なんかは、作曲者が聴いたら怒るだろうが、新鮮でおもしろいし、フォーレアルベニスヤナーチェクといったあたりがじつにおもしろい。リストやドビュッシーなどは、グリモーさんならこれくらいはやるだろうなという、予想の範囲内ではないか。いずれにせよ、グリモーさんはわたしはおもしろいと思う。なかなかこういうピアニストは少ないですよ。
ウォーター

ウォーター

オバサンになっても少女のような顔立ちのグリモーさんであります。わたしのひとつ年下ですな。

晴。
コメダ珈琲店各務原那加住吉店。たっぷりブレンドコーヒー520円。ミスドの270円のコーヒーほど好みじゃないのだよなあ。さて、津原泰水の『11 eleven』という短篇集を読む。この作家は御多分に洩れず例の幻冬舎騒動で知ったのだが、この短篇集はあるブログで、これを読んで自分の才能に絶望して途中で放り出したという記事に興味を覚え購入、しばらく寝かせておいたらまた別のブログで読了記事を読んで読み始めた(って何かややこしいですね)。ある評者によれば、津原泰水は「当代最高の短篇の名手」で、本書は「当代最高の短篇集」なのだとか。ふーむ、僕は幻想小説は好きな方だと思うのだが、へえ、そんなものですかねえ。わたしには読む才能というか、これがわかる感性がないのだな。もちろん、優れた短篇たちだとは思うし、敢ていうなら優れた「純文学」だろう、決して「エンタメ」ではあるまい(って何でもいいのだが)。なお、津原泰水さんは若手かと思っていたら、僕よりも年上の小説家でした。続けて読む。

津原泰水『11 eleven』読了。確かにおもしろかった。しかし、「まあまあだった」とか言ったら文学がわからない奴(正当な評である)と津原ファンに罵倒されかねない雰囲気である。大森望氏による解説はすこぶる勉強になりました。文学音痴は、勉強することが多いぜ。
 文章は見事で、雰囲気を作るのがじつに巧みであると思う。僕は「クラーケン」とか、「犬と女性」のエロティシズムに監禁とレズビアニズムを混淆させておもしろかったですね。津原泰水の最高傑作とされる「五色の舟」は、奇形と舟というのが古事記ヒルコのエピソードを思わせておもしろいと思った。しかし、仮に本書短篇がすべて幻想小説であるとして、(うまくいえないのだが)「想像力の論理」みたいなのがもっと明晰だとよいと感じた。なんだかストーリー展開があいまいな、雰囲気で進んでいくような印象がある。しかしまあ、文学音痴のわたしのいうことですからねえ。あまりにもわたしの感性が古くさいし。

11 eleven (河出文庫)

11 eleven (河出文庫)

しかし、大森望さんの解説の、「(SF用語をいっさい使わずに書いた)グレッグ・イーガンばりの量子論SF」(p.281)というのは、さすがにいいすぎではないの? 僕は本当に恥ずかしいことにグレッグ・イーガンは読んだことがないが、「五色の舟」は量子論のたんなる多世界解釈っていうだけでしょう。グレッグ・イーガンって、すごいハードSFだって聞いているのだが。まあ、そんなことどうでもいいのだけれどね。