谷川俊太郎・河合俊雄編『臨床家 河合隼雄』

晴。
何となく明け方まで起きていたので、昼飯前に起こされる。

NML で音楽を聴く。■モーツァルトのピアノ・ソナタ第六番 K.284 で、ピアノは野平一郎(NMLCD)。■スカルラッティソナタ K.163, K.164, K.165, K.166, K.167, K.168, K.169, K.170 で、ピアノはカルロ・グランテ(NMLCD)。


谷川俊太郎・河合俊雄編『臨床家 河合隼雄』読了。おもしろかった。『思想家 河合隼雄』よりもおもしろかったかも知れない。それはそうなので、河合先生は何よりもまず心理療法家であった。本書にはいろいろな文章が収められているが、いま活躍しておられる先生方による、河合先生による「教育分析」(心の専門家になるために受けねばならぬ分析)について書かれた文章はどれもすごいものだった。ここでは、流れの中での河合先生の具体的なコメントが読めるので、こちらを納得させるものが多くあった。ここに見られるのは、「すごくこわい」河合先生の姿である。まさしく、命をかけた真剣勝負と呼んでもさほど誇張ではない。なるほど、河合先生の「戦場」はこういうところにあるのだと思った。
 一方では対極的に、本書では感情家、センチメンタルな河合先生の姿も見られておもしろい。講演の最中で泣き出してしまう河合先生などは、自分には意外な光景であった。そう、徹底してクールな先生と涙もろい先生との両面が絶妙に合わさっていて、初めて河合先生だったのだ。それは矛盾といえば矛盾なのだが、こうした矛盾はむしろ誰でも必須なものの筈である。だけれども我々はまだ未熟だから、なかなかそうはいかないだけだ。
 それにしても、河合先生はとてつもなく大きな仕事をされたのだな。大変な人物であったと思う。

臨床家 河合隼雄 (岩波現代文庫)

臨床家 河合隼雄 (岩波現代文庫)

 
しかし、自分は本なしでも生きていけるとも思っていたが、自分はどうもまだ世界そのものという「書物」を読むまでには至っていないのだなと納得されるところがある。自分にはまだ、自分のまわりから豊かさを無限に汲み上げてくるアンテナがない。本や音楽で、なんとかしのいでいるというのが事実なのではあるまいか。世界の豊かさは、いまやいったいどこにあるのだろうか。自分はまだ魔法の鍵をもっていない。