ミカエル・ロストフツェフ『隊商都市』

晴。

NML で音楽を聴く。■バッハの管弦楽組曲第三番 BWV1068 で、指揮はフランス・ブリュッヘン、エイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団NMLCD)。■ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」op.123 で、指揮はジョン・エリオット・ガーディナー、オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク、モンテヴェルディ合唱団(NML)。

Missa Solemnis

Missa Solemnis

 
「ミサ・ソレムニス」がしんどかったので昼まで寝てしまった。って何をやっておるのか…。


ミカエル・ロストフツェフ『隊商都市』読了。青柳正規訳。碩学の珠玉のような小品が優れた散文によって訳された、近年ではなかなか見られなくなったような香り高い書物である。隊商都市(キャラヴァン・シティ)というのは、古代中東におけるキャラヴァン・サライ(隊商宿)を中心に発達した都市を指していわれる言葉である。本書で紹介されている隊商都市は、ペトラ、ジェラシュ、パルミュラ、ドゥラの四つであるが、自分はそのどれをも知らなかった。たぶん少なからぬ人が自分と同じだと思うが、それはさらに重要であった筈のアレッポダマスクスなどが後世(現代)まで重要都市として存続しているため、考古学的な資料が土の下に埋もれてしまっており、発掘などがむずかしいからである。逆にいうと、本書で紹介されている隊商都市は、歴史的には既に役目を終えたものなのだ。ゆえに却って、我々の「ロマン」を喚起する要素を多分にもっている。著者は現地の調査を行っており学術的な記述が主であるが、一般人にも魅力的な書物になっているのは、そういう「ロマンティックな」要素を排除していないこともあるだろう。いやなに、特に誇張せずとも、現実の遺跡の描写・考察が既におもしろいのだ。収録された写真を見ても、例えばハリウッド映画がいかにこのようなイメージを好んで使ったか、当然という気もしてくる。二〜三世紀のローマ帝国の知識があると、さらにおもしろく読めると思う。それにしても、本書を読んでいるとパルティアに関する知識がいかに空白になっているのか、驚くほどで、現在の学問ではそのあたりはどうなっているのだろうか。実際、本書の対象がパルティア学に貢献しているのを読者は見る筈である。
 また、上にも少し書いたが、本書の文章は自分には優れたものと思える。柔らかくてみずみずしい日本語であり、このような文章は残念ながらいまの学者からはほとんど失われてしまった。この文章を読むこと自体が楽しみのひとつであったと、忘れずに記しておこう。特に文学的な文体というわけではなく、学術的散文として、である。訳者の本としては、中公新書の『トリマルキオの饗宴』は読んだ筈である。あまりはっきり覚えていないので、そのうち再読できたらいいな。

隊商都市 (ちくま学芸文庫)

隊商都市 (ちくま学芸文庫)