高山宏&巽孝之『マニエリスム談義』

日曜日。晴。
変な夢を見る。どうして自分は大阪の陋巷に沈湎しているのか。

NML で音楽を聴く。■ハイドンのピアノ・ソナタ ニ長調 Hob.XVI:37 で、ピアノは園田高弘NMLCD)。例えばブレンデルの軽くて洒落た演奏に比べると随分無骨で生真面目だが、まあいいではないか。これが園田高弘なのだ。■ベートーヴェン弦楽四重奏曲第二番 op.18-2 で、演奏は東京Q(NML)。

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲集 (2CD) [日本語帯・解説付き輸入盤商品]

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プーランクのフルート・ソナタ、フランソワ・ドヴィエンヌのフルート・ソナタ ホ短調で、フルートはゲルゲイ・イッツェーシュ、ピアノはアレックス・シラシ(NML)。プーランクのフルート・ソナタは超有名曲。好きにならずにはいられない、チャーミングで哀愁漂う曲だ。
Digital Booklet: The Great Book of Flute Sonatas, Vol. 3: French Music

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NML で音楽を聴く。■モーツァルトのピアノ・ソナタ第十二番 K.332 で、ピアノは園田高弘NMLCD)。昼食後のせいか極度に眠かった…。すみません。
 
部屋掃除。

カルコス。このところ本屋に入ると多かれ少なかれ気が滅入るのであるが、今日はなかなかよいものがあった。まあお目当ての本はなかったし「群像」7月号も出ていなかったけれど、まずヴィーコの『新しい学』が分厚い二冊の文庫本になっていた。こんな絶対に売れない本を入れた中公文庫は、少し復活してきたらしい。『レイテ戦記』も改版されて一冊づつ刊行中のようである。それから、高山宏さんと巽孝之の対談本が出ていて、お値段もリーズナブルだったので即購入。自分には歯が立たないことはわかっているけれども、この値段なら買わないわけにいかないだろう。出版社は彩流社。さても新書本はあいかわらず悪貨が良貨を駆逐する現状である。何でもいいけれどね。


高山宏巽孝之マニエリスム談義』読了。めくるめく書物たちの饗宴。若い人はこういう本を読んで人文学の奥深さを知るといいと思う。本書の高山氏はみずからを「神」と自称され、バカは死ね(とは仰っていないが笑)という態度であるので、そのカテゴリーに当て嵌まる自分としては情けない次第ではあるが。正直言って、一行も理解できなかったのではないか。学生の頃までの自分は高山氏と同じくパラノイアだったので、ブルクハルトとかペイターとか、わりと近い位置にいたのではあった。しかし「神」の手にかかると富士川義之氏も澁澤龍彦氏も罵倒の対象なので、さすがにちょっと辟易させられないでもなかったが。また、トランプ大統領を辞めさせればアメリカが元に戻ると思われているのにはびっくりした。そんな浅はかなことをいう人ではなかったと思っているのだけれど。まあしかし、自分にはわからないけれども、得難い人ではある。なお、本書に索引がないのはどうしてなのだろう。人文書として検索に不便すぎるのだが。

巽孝之は本書に顔写真が載っているけれど、ひどい顔だね。なるほど、さもありなんと思われた。(←こういうことをいうやつは阿呆)

ああ、人の悪口を書くと気が滅入るな。

若松英輔小林秀雄について書いた分厚い本を読む。三分の一くらい読んだが、おもしろい。若松英輔は自分と同い年で、その中ではもっとも真摯な書き手だと思う。若松が小林秀雄を読み始めたのは十四か十六か、ちょっと思い出せないが、自分はたぶん高校生のときに出会った。記憶は曖昧であるけれども、それは「モオツァルト」で、クラシック音楽を聴き始めたから読んだのである筈だ。それが自分の出発点である。そんな古くさい人間は同時代にいないと思っていたが、若松は自分よりも早く小林秀雄に出会っていたらしい。奇妙なものである。小林秀雄は自分が初めて全集を買った物書きであり、繰り返し読んだことでもいちばんだ。これまでに小林秀雄について書かれたものは多数読んできたが、本書はその中でももっともよいものであるという予感がする。自分は若松を全肯定しないけれども、本書の視野の広さには感服させられる。自分の到底及ぶところではない。

本当はもっと続けて読みたいのだが、寝転がって読んでいて肘が痛くなってきたので止める。しかし、いまさら小林秀雄とは! そのアナクロニズムと蛮勇には感動的なものがあるではないか。自分は林達夫は既に死んだと思っているが、小林秀雄はまだ新しい時代の土台のひとつになり得ると思っている。そのために、若松英輔のような自由な視点が必須であることは疑いない。

それにしても、繰り返すが、いまさら小林秀雄とは! ようやく小林秀雄を忘却の淵へ追いやってよろこんでいる人間が少なくないいま、小林秀雄が簡単にバカにされるいま、眠った子を起こすようなことを若松英輔はやっている。そのような試みがムダでないのか、本書の先を読むのが楽しみだ。というか、本当にそのようなことが可能なのか、この時点で自分は疑っている。若松英輔がその予想を軽々と覆してみせることを期待しよう。

そういえば、安藤礼二も自分に近い年齢の真摯な批評家であるが、自分は安藤礼二は読まなくなってしまったな。何となく、安藤礼二若松英輔は似ている感じもする。