会田弘継『破綻するアメリカ』

晴。さわやかなすばらしい天気。

朝早くから病院。いつもの治療の他、今日はいろいろ盛りだくさん(?)だった。全部で三時間くらいかかったが、自分のようにぼーっとしているのが得意な人は助かる。点滴を待っている間も、一時間くらいぼーっとしていた。それにしても、最新の大病院というのには感心してしまう。よくできているな。それに、現場の人たちは親切で丁寧な人が多い印象だ。いまの日本は現場でもっているのかなとか、どうでもいいことを思う。

しかし思うが、自分のように世間や現場をよく知らず、頭でっかちでエラソーな人間がいちばん質(たち)が悪い気がする。(ネットの暇人たち。)ホント、せいぜい大人しくして、人の迷惑にならないようにしたいものだ。

NML で音楽を聴く。■シューベルトの「さすらい人」幻想曲 D760 で、ピアノは廻由美子(NML)。いやあ、驚いた。めちゃくちゃな演奏である。もっとも自分は楽譜を見て聴くことができるわけではないから、もしかしたら綿密な楽譜の読みから生まれた演奏なのかもしれないが、自分にはめちゃくちゃに聴こえる。しかし、この曲をこよなく愛する自分が断言するが、この演奏はこれはこれで成立していると思う。シューベルトの精神を裏切ったものでは、たぶんない。それにしても、よくもこんな演奏を録音するというリスキーな賭けに出たものだ。えらいものである。ただ、自分のような保守的な耳には、このような天才はちょっと居心地が悪く、ポリーニリヒテルといった古くさい凡人たちの演奏をどうしても選んでしまうことになろう。じつに申し訳ない気分である。ピアニストの冒険魂に幸あることを祈りたい。

シューベルト:さすらい人幻想曲

シューベルト:さすらい人幻想曲

ブラームス弦楽四重奏曲第二番 op.51-2 で、演奏は東京Q(NMLCD)。東京Q っていいカルテットだよね。基本的に外向的だと思う。一方、intimate な表現はどうも苦手のように聴こえるが、そんな風に聴くのは自分だけかもしれない。■モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第十九番 K.302 で、ヴァイオリンはアンネ=ゾフィー・ムター、ピアノはランバート・オルキス(NMLCD)。

図書館から借りてきた、会田弘継『破綻するアメリカ』読了。いやー、これはおもしろかった。最近ではもっともおもしろかった本であると言っていい。自分の能力を超えるので中身については書けないが、じつは読み始める前は題名からして「アメリカもおわりだ、ウェーイ」みたいな本かと思っていた。ところが、読んでみたら非常に骨太の本であった。内容の流れとしては、アメリカがトランプ大統領を生み出した背景を探るというものである。トランプが大統領になったのは、アメリカ人がバカだからだ、などと我々は単純に思ってしまいがちであるが、なかなかそれどころではなかった。大袈裟にいうと(じつは大袈裟ではないのかも知れないが)、そこでは世界史で初めての、未知の地殻変動が起きており、トランプの個性などほとんどどうでもいいということである。正直言って、これも大袈裟だが、自分は人間というものの愚かしさがここまできたかというような、殆ど感銘に似た感情を覚えた。そして、おそらくここから人類が脱出することは不可能ではないかという感想をもった。この潮流は、確実に(日本も含めた)世界中に拡散し、インターネットがそれを決定的に強化するであろう。自分が本書に感銘を受けたのは、自分が日本のネット空間で感じている「人間というものの崩壊」の様子が、アメリカではリアル世界に実現され、荒みきった精神が支配的になっている事実に驚いたからだ。幸いなことに、日本ではまだそこまではいっていない。しかし若い人たちを見ていると確信されるが、日本もいずれ(程度の差はあっても)確実にこうなる。これを逃れる術はない。
 わたくしが驚くのは、この現象がアメリカにおけるもっとも知的な層で生じているということである。というか、高度な知性の行きつく果てにこうなったということだ。問題を認識し、議論し、最善の対応をする結果、こうなったのである。そして、我々は「非合理主義」に陥ることは絶対に許されていないのだ! この袋小路を解決しようという試みも、事態をさらに紛糾させるだけである。我々はどうすればよいのか? どうしようもないのではないかというのがわたくしの予感である。といって、私は非合理主義を信奉するわけではない。この袋小路に同じく入り、絶望の後に死ぬのであろう。いや、これは本当なのか? 質(たち)の悪い冗談なのではないか? まあ、そのあたりのことはかしこい人たちに任せて、私は蒙昧の道を進むしかない。

破綻するアメリカ (岩波現代全書)

破綻するアメリカ (岩波現代全書)

いや、何とも救いのない文章を書いてしまった。もっとも、こんなものは誰も読まないからいいか。しかし、これを読んでもどんな本かわからないよね。