中川右介『ロマン派の音楽家たち』

曇。雪が降らなくてありがたい。

起床直前にスイッチが入って、ずーっとぼーっとしている。


中川右介『ロマン派の音楽家たち』読了。副題「恋と友情と革命の青春譜」。うん、かなりおもしろかったですね。ロマン派の大音楽家たちの恋の情熱的なこと! これはまた、同時に女性が社会的に活躍し始めるようになり、主体性をもち始める時代でもあった。シューマンと結婚したクララは、偉大なピアニストでもあったし、ショパンの愛人であったジョルジュ・サンドは男装する女流小説家でもあった。
 楽しい本だったので思いつきだけで書くけれど、本書の主人公たちは、皆お互いに知り合っていて、しかもたいていは深い友情で結ばれているのだった。たとえばいまでも何かと対比されるショパンとリストであるが、本人たちはお互いに強い友情で結ばれていて、パリではこれにヒラーも加えて(ピアニスト)三羽烏と見做されていたくらいである。本書全体で、リストはかなりいい人ですね。苦しい友人たちを積極的に助けているし、他の音楽家(例えば年下の女性ピアニスト、クララ・ヴィーク)に対しても親切で好意的である。音楽は肯定的であるのに、メンデルスゾーンは結構辛辣。シューマンもよい人で、批評的センスは抜群という感じ。おもしろいことに、シューマンワーグナーも作曲はほぼ独学なのだよね。
 本書は大河ドラマみたいな感じだった。音楽のことももちろん書いてあるけれど、恋の話の方が多いのだもの。これがまたドラマティックで、いやこれマンガになるね。音楽を知っている人ならさらに楽しめるだろう。そうそう、大音楽家たちはイケメン揃いだったという、出来すぎなような話も。

そうそう、当時はまだ演奏会というとショーみたいなもので、古典を取り上げる現代の厳粛な(?)演奏会というのは本書の主人公たちが作り上げていったのである。例えば指揮におけるメンデルスゾーン、ピアノにおけるクララ・ヴィーク(クララ・シューマン)、リストなど。ベートーヴェンをポピュラーにしたのも彼らで、彼らは皆音楽的に「ベートーヴェンの子供たち」であったのだ。

 

シューマンの「交響的練習曲」op.13 で、ピアノはダニール・トリフォノフ。若くて才能あるピアニストであることは明らかだが、まだまだのところもある。好みとしては自分の好きなタイプのピアニストではない。途中かなりユニークな解釈が聴かれるが、どうもその場の恣意的な思いつきではないのかと思わせないでもない。技術の爽快感みたいなものはないが、豊かな感受性があることもまた明らか。順調に伸びていくことを期待したいピアニストだ。

この曲はロマン派の音楽の中でももっともロマンティックな曲のひとつと言っていい。上の本によると、この曲は当時シューマンが恋愛していたエルネスティーネを思って作曲したようであり、既に評判の高いピアニストであったクララはまだ密かにロベルトのことを好きだっただけだった。クララはまだ15歳であり、もう大人だったシューマンにはクララはまだ子供にすぎなかったのである。年上の「ロベルトさん」に恋していたクララは、演奏会でもシューマンの曲を取り上げたりしてアピールしているのだが。二人の間に恋愛関係が燃え上がるのは、まだ先のことだ。(AM01:39)