アレックス・ロス『これを聴け』

日曜日。曇。
夜の間は雨だったようだ。起きてすぐ地震。長野で震度5強。

ショパンのバラード第一番 op.23 で、ピアノはチョ・ソンジン。ピアノの音がきれい。演奏もなかなかで、ここまで弾けるなら大したもの。個性はそれほど感じないが。

モーツァルト弦楽四重奏曲第十四番 K.387 で、演奏はハーゲンQ。この動画は音質があまりよくない。ハーゲンQ はかなり癖の強いカルテットであるが、やはりこれほど弾けるカルテットはめったにないだろう。一流のそれというべきだ。ただ、音質のせいか、ここではちょっと乱暴にも聴こえる。気のせいかもしれないが。

シューマン幻想曲ハ長調 op.17 で、ピアノはエフゲニー・キーシン。色いろ考えさせられる演奏だった。キーシンが好きなタイプの聴き手なら、満点をつけるような演奏だろう。しかし、自分はそう簡単にはいかなかった。特に第一楽章に根本的な違和感を覚えた。そもそもキーシンというピアニストは何でもショパンにして弾いてしまう人で、それがかなわない。これでは、この曲がベートーヴェンを継承してさらに画期的であったことがまるでわからないではないか。それに、シューマンにしては楽天的に過ぎよう。それは第三楽章にも感じた。もっと毒をもって、危険に演奏してほしいのだ。しかし、外面的な第二楽章は、すばらしい出来でありました。こういうのはキーシンはさすがであり、あり余るテクニックと音楽性で聴かせる。

図書館から借りてきた、アレックス・ロス『これを聴け』読了。柿沼敏江訳。SHADE さんに教えてもらった本。アレックス・ロスはたまたま自分と同い年であるが、音楽についてもそれ以外についても大変な博識だ。音楽はクラシック音楽だけでなくあらゆるジャンルの音楽に造詣が深い。また、(クラシックの)現代音楽の作曲家になるための勉強をしていただけあって、完全に分析的なやり方で、あらゆるジャンルの音楽を聴くこともできる。文章も上手い。情熱もある。とにかく、音楽評論家として、必要な才能をすべてもっているというべきであろう。恥ずかしい話だが、自分が知っているのは主にクラシック音楽の、それも一部のジャンルにとどまり、例えばバロック音楽やオペラについてはほとんど何も知らないという偏りぶりである。分析的な耳もないし、また、演奏会での実演にもほとんど接せず、録音だけで音楽を聴いている。つまりは、アレックス・ロスが罵倒する保守的で無知な聴き手にすぎず、これでは本書は正確には判断できないのである。けれども、わからないなりに勉強にはなった。いつになるかはわからないが、ビョークボブ・ディランなども聴ければいいと思っている。本書では、エサ=ペッカ・サロネンブラームスを扱った章が自分にはとりわけおもしろかった。

これを聴け

これを聴け

ブログ「本はねころんで」さんが小林勇を取り上げておられるが、小林勇とはまたなつかしい名前である。一時期読んでいたものにこの名前が頻出したこともあり、小林勇は編集者ではあるが、著書もあって何冊か読んだ記憶がある。しかし、それははたして何だったのか、たぶん探せば出てくるだろうが、よく覚えていない。幸田露伴など大家に気に入られる人で、一時期岩波書店を飛び出して立ち上げた「鉄塔書院」というのは、確か露伴が名付けた筈である。岩波新書を立ち上げたのも小林だったような気がするのだが、これもうろおぼえ。伝説的な語学者である河野與一の尻を叩いて翻訳をみずから口述筆記し、どんどん出版するとかいうこともしていた。物理学者のド・ブロイの『物質と光』とか、『プルターク英雄伝』は、そうして出版されたのだ。ちなみに河野與一訳の『プルターク英雄伝』は、谷沢永一がその訳文を口を極めて罵倒していたのを思い出すね。