カール・ポランニー『経済と自由』/吉田修一『熱帯魚』/多和田葉子『犬婿入り』

日曜日。晴。
音楽を聴く。■ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第二番op.100(スパーフ、ウェステンホルツ、参照)。ピアノがちょっとうるさい。慣れるけれど。■シューベルト弦楽四重奏曲第三番D36(メロスQ、参照)。■クララ・シューマン:三つの歌曲(アンネ・ゾフィー・フォン・オッターエレーヌ・グリモー参照)。魅力的でないこともない。不安定な曲たち。■ニールセン:交響曲第二番op.16「四つの気質」(バーンスタイン NYPO 1973)。おもしろい。

カール・ポランニー『経済と自由』読了。未発表論考集。このところ経済学には興味を失いつつあったが、また気になってきた。尤も、筋の良い経済学を学ぶ人は、ポランニーなど一顧だにしなくても不思議はないだろう。僕は、ポランニーの強靭な思索力に驚く。経済学は、現在主流のそれ以外の思考法があってもよいということだ。現在の経済学は大変な成功を収めているが、それは意外と単純な仮定のもとに築かれている。別の方向から考えてみるのも、きっと意味があると思う。例えばの思いつきだが、現代のマネー取引は、実際のところはそのかなりの部分が電子化されている筈である。ヘッジファンドなどはその事実に乗っかって、コンピュータにより毎秒数千回の取引を行うことができる。さて、それは、具体的にどのようなシステムなのか。例えば金融ネットワークはもちろんインターネットなどを使っている筈はないが、さてどのようなシステムなのかというと、自分はまったく無知であることに気づく。そしてそこでは、どのようなコードが動いているのか。素人初心者プログラマーには、見当もつかない。それらって、色々なんだろうが、例えば Java で動いているの? 僕の Ruby って、それらに何とかなるのか。さてはて。それはともかく、『大転換』も読んでみたいね。ちくま学芸文庫に入っている他のポランニーも、読み返してみるか。

ポランニー・コレクション 経済と自由:文明の転換 (ちくま学芸文庫)

ポランニー・コレクション 経済と自由:文明の転換 (ちくま学芸文庫)

吉田修一『熱帯魚』読了。短編三篇。吉田修一ってシャレオツな作家に分類されているのかも知れないけれど、筆力があって読ませる。吉田修一風の恋愛って僕には何の関係もないが、それなのに読んでいると引き込まれてしまうのだ。表題作はいたたまれないような話だし、「グリンピース」の主人公なんて、最低の男のように僕には思えるのだが、結局二人が別れてしまわないのは、こういう男にも女性から見たら魅力があるのだろうなあとしか思えない。両篇とも男のチンポの描写がさりげなく出てくるのだが、わかんねえなあ。こういうのを読んでいると、俺やっぱり恋愛はやめとくわとつい思ってしまう。こんな面倒なことはできません。甲斐性無しでやんす。何の話だっけ。まあ、またそのうち吉田修一は読むのではないか。エンタメなのか純文学なのか、不思議な作家です。
熱帯魚 (文春文庫)

熱帯魚 (文春文庫)

ロラン・バルトに『恋愛のディスクール』という本があったが、人が人を好きになるという摩訶不思議なこととは別に、恋愛こそは最も記号論的である。徹底的に文化的文脈の中にあるのだ。僕が苦手だったのはそこで、「恋愛」に不可欠な「イベント」をこなしていくのがじつにむずかしかった。例えば、恋人がいれば、クリスマスがあたかもなかったように振る舞うわけにはいかない。もちろん、そんな女性ばかりではないという人も居るかも知れない。確かにそうかも知れないが、女性はその人なりの「恋愛のコード」を必ずもっているものだ。それを読み取れるかどうかが、男性の「恋愛能力」になる。その意味で、僕は「恋愛不適格者」なのである。まあそんなむずかしく云わないでも、「女の気持ちがわからない」って云えばいいか。
図書館から借りてきた、多和田葉子犬婿入り』読了。これはおもしろかった。『球形時間』はそうも思わなかったが、これを読むと著者が想像力で勝負する、純文学の作家らしい作家であることに気づく。僕は著者の文章そのものに、一種の異物感というか不快感を感じるのだが、これは小説家としての長所である。この不透明感は、ちょっと島田雅彦を思わせないでもない。それから、文章は乾いているけれども、どれも独特な形で性を扱っている。特に「ペルソナ」では姉弟の近親相姦が隠れたモチーフになっているが、これなどは西洋的な感じがする(日本人にはわかりにくいかも知れない)。ただ、姉弟というのは日本的でないこともなく、よく知らないが、西洋では兄妹の方が一般的なような気がする(想像力における日本の近親相姦は圧倒的に母息子のそれであるが、アメリカなどでは完全に父娘であることと、相似形なのではないか)。そう、いま思ったのだが、著者の小説は初期の大江健三郎に似ていないこともない。何となく気質が似ているというか…。他の小説も読んでみたい気を起こさせる。
犬婿入り

犬婿入り