原武史『団地の空間政治学』/エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』/佐渡裕指揮のベルリオーズ「幻想交響曲」

晴。
原武史団地の空間政治学』読了。題名どおりの本で、戦後史を考えるに「団地」というものに照明を当てたのは、着眼点が素晴らしい。恐らく、類書はほとんどないのではないか。『鉄道ひとつばなし』のシリーズの著者らしい視点も、本書の強みである。ただ、本書が扱っている団地は、基本的に東京中心で、後は関西の一部だけであり、確かにこれだけでも画期的なのだが、地方都市についてはまったく述べられてはいない。地方在住者としては、そのあたりは残念でないこともない。いずれにせよ、戦後の家族形態に形を与えたものとして団地を考えることは、これからの共通認識となるべきであろう。ここで醸成された「一家族一住居」という家族形態は、マスメディアの影響もあり、地方都市も含め、日本全体に及んでいくのである。

団地の空間政治学 (NHKブックス)

団地の空間政治学 (NHKブックス)

エドモンド・ハミルトン『フェッセンデンの宇宙』読了。ハミルトンはあの「キャプテン・フューチャー」のシリーズの作者なのだな。子供の頃、NHKのアニメでやっていたのを熱心に見ましたよ。本書は短篇集で、正直言ってSFとしては古臭いが、ストーリー・テリングの妙がある。かなり惹き込まれました。どれがいいかは人によるだろうが、自分には「夢見る者の世界」や「世界の外のはたごや」などが面白かった。前者の、ヒロイック・ファンタジーと「胡蝶の夢」がドッキングしたようなところが気に入ったわけです。カール・カンの人物造形が魅力的。また、表題作の「フェッセンデンの宇宙」は確かに古典的名作だ。結論を云えば、本書は拾い物という感じ。誰が読んでもそれなりに面白いと思う。
フェッセンデンの宇宙 (河出文庫)

フェッセンデンの宇宙 (河出文庫)


佐渡裕指揮パリ管の、ベルリオーズ幻想交響曲」を聴く。佐渡裕を聴くのは初めてで、じつは著書を先に読んでしまっている。バーンスタインの愛弟子であり、晩年のバーンスタインにとてもかわいがられたのであった。聴き始めてすぐに、これは大変な才能だとわかる。ただ、形容がむずかしい。とても個性的であり、バーンスタインも含め、他の誰にも似ていないと云っていい。このディスクは2002年のライブ録音であるが、熱いだけでなく、当り前だが、コントロールは決して失わない冷静さもある。そう、曲が立体的に聴こえる演奏というか。このベルリオーズだけでははっきりしたことは云えないが、この人は「天才肌」の指揮者という感じがする。とにかくユニークな幻想交響曲だ。最後の聴衆の熱狂もすごい。佐渡裕、さらに聴いてみたくなった。
ベルリオーズ:幻想交響曲

ベルリオーズ:幻想交響曲

辻子紀子(Tujiko Noriko)ってこれまで知らなかったが、なかなかだな。You Tubeこちら