映画「探偵はBARにいる」/モーム『お菓子とビール』

曇。

朝イチで、イオンのワーナー・マイカル・シネマにて「探偵はBARにいる」を観る。かつて松田優作の「探偵物語」(TVドラマの方ね)に痺れた者には、ピピっときましたよ。映画は久しぶりだったが、B級映画をたっぷり堪能しました。予想通り、大泉洋松田龍平のコンビが最高! 松田龍平の演技は初めて見たが、優作とは比べないけれど、いい感じじゃないか。舞台が札幌というのも、意外性があって、特にチープな感じに撮ってあったのがなかなか良かった。コミカルな基調にシリアスをシェイクしたのが、ほとんど「探偵物語」へのオマージュのように見えて仕方がなかった。大泉も松田も、ニセモノっぽいのに、ついマジになってしまうのがhard-boiledで、カッコよかったなあ。続編希望!
※大泉・松田インタヴュー(参照

その後、3Fの「丸醤屋」にてラーメンと餃子(別にうまくもなんともない)。カルコスにBOOK OFF。

モーム『お菓子とビール』読了。うーん。唸らされた。まず、いつもの面白さ、ストーリーテリングの巧さはここでも健在。それはまあいい。で、本書はまあ一種の「文壇物」というか、作家同士の内幕を描いているのだが、しかし、この辛辣さはどうであろう。モームは自分の小説家としての才能をしっかりと分かっていて、そこから、才能がないのに世渡りのうまさでのし上がってきた仲間の作家や批評家をカリカチュアライズするのであるが、残酷としか云いようがない。これはモデル問題が出てくるに決まっている。描かれた方の作家はすぐに気づいて、読んだ晩は一睡もできなかったということだが、それはそうだろうな。まだ、飲み屋というプライベートな場で作家を泣かせた、小林秀雄の方が優しいくらいである。
 しかし、本書の本当の魅力は、巨匠として描かれている作家ドリッフィールドの最初の妻、ロウジーの人物造形だろう。粗野だが天性の魅力をもち、周りの男に惜しみなく愛を与えてしまう、つまりは尻軽なのだが、それが太陽が平等に陽を与えるように、自然になされるのである。彼女も実際にモデルがいたようで、訳者に拠れば、モームが唯一本当に愛した女性ではなかったかとのことだ。モームは本書で、自身のみっともないところまで描きながら、彼女の魅力を筆の力で描写しようとする。そこにはいつもの皮肉っぽさはなく、いわゆる「ベタな」描写で、自ら苦笑してみせる程だ。
 とにかく中身の詰まった、モームにしか書けない類の、傑作である。モームは自分で、己は一・五流の作家だと書いているところがあったと思うが、本書を読んでみると、自己評価がどうやら低すぎたようだ。それから、行方氏の翻訳も、いつも通りモームの面白さ、すごさをよく伝えるものになっていると思う。

お菓子とビール (岩波文庫)

お菓子とビール (岩波文庫)