ディラック『量子力学』メモ(2)

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ブラ・ベクトルとケット・ベクトルを導入しただけでは、何も始まらない。これに加えて、「一次演算子」が導入される。これもまた、天下り式であり、いまだ抽象的なものである。
 いま、ケット|F>がケット|A>の関数になっているものとする。|A>から|F>に移ることは、|A>に或る一次演算子を施すことで行なわれるとすると、その演算子をαとすれば、
     |F>={\alpha}|A>
と書いてよい。ただし、気を付けねばならないのは、演算子αとβは一般に可換ではない、すなわち
     \alpha\beta\neq~\beta\alpha
であることだ。可換である場合は、ディラック演算子として、ξやηを用いている。また、ブラ、演算子、ケットの三重積は、
     [tex:]
などのように書く。ケットに掛かる一次演算子としては、
     [tex:|A>に掛けると
     [tex:|A>]
となり、確かにケット|A>にただの数を掛けたものになる。ブラ、ケット、一次演算子を使った代数的関係は、以上のようになる。
 では、一次演算子の物理的な意味は、どうなるのだろうか。ディラックは、「一次演算子はその時刻での力学変数に対応する」(p.34)と述べている。(ゆえに、ディラックは「一次演算子」と「力学変数」の語を、同じような意味で使っているところもある。)力学変数というのは、具体的に云えば、粒子の位置や速度、角運動量、その他もろもろのことである。ここで初めて、具体的な物理的内容が導入されたわけである。そして、先走って云っておけば、その一次演算子の「固有値問題」として、物理的な量が決定されるのである。
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