空海『秘密曼荼羅十住心論(下)』/荻上チキ『未来をつくる権利』

晴。
音楽を聴く。■ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第四番(デュメイ、ピリス、参照)。

空海『秘密曼荼羅十住心論(下)』読了。これで、空海の教相部の全著作が文庫化されたことになる。

荻上チキ『未来をつくる権利』読了。本書の最初で、これは「こんな権利がもっと定着すればいいのに」と感じたことを網羅した、それだけの本だという著者の宣言があって、一見軽い本かと思ってしまいがちだが、じつはそれだけに留まらない。まず、各章の題を挙げておこう。「縁を切る権利」「病気である権利」「快眠権と快便権」「『家族』をつくる権利」「スポーツ権」「未来をつくる権利」であるが、なかなか一筋縄ではいかないということがわかるのではないか。例えば「快眠権」というのは、日本人の睡眠時間が世界的に見て、ひどく少ないという事実を踏まえている。過労死や心の病などが増える筈である。また、「『家族』をつくる権利」というものへ、ハンセン病水俣病の歴史を、コンパクトながら突っ込んで議論することから、繋げている。「スポーツ権」にかこつけて(?)、人種差別問題や体罰の問題に切り込んでいく。その他、監視カメラの問題など、自分はとても啓蒙された。柔らかい語り口とシンプルな言葉でなされた、わかりやすい講義なので、是非参照されるといいと思います。
未来をつくる権利 社会問題を読み解く6つの講義 (NHKブックス)

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カルコス。「新潮」の浅田彰東浩紀の対談を立ち読みする。「フクシマ」は思想たりうるかというテーマ。まず言っておくと、これは非常に面白かった。そして、(昨日ちょっと書いておいた)片山杜秀さんの文芸時評とは、ちょっとニュアンスがちがっていた。浅田さんの言いたいのは、福島の原発事故では、太平洋戦争であった「わかっているのに物事を変えられない日本人」という(丸山眞男的な)問題が、うんざりするレヴェルで再び露呈したということかなと感じた。そして、当たるを幸いすべてを叩き斬っているという、浅田さんらしいアグレッシブさは健在だった。しかし、「アドルノを克服したい」というのは、めずらしい弱気ではあるまいか(対談の注記に、浅田さんが対談の前に不整脈で倒れていたというのがあって驚いたのだが、それと関係があるのだろうか)。とにかく、浅田彰東浩紀も異常に頭がよく、特に浅田彰はメインストリームにあるべき存在だと痛感した。そうでない今の日本の状況が、おかしいのである。それに、浅田さんは、その存在自体が極めて「文学的」である。個人的なことを云うと、この対談で東浩紀さんの発言は自分は殆ど覚えていないのだが、浅田さんの言ったことは色々心に残った。
 それにしても、頭がいいというのはどういうものなのだろう。まあ、頭のよくない我々は、それなりにやっていくしかない。浅田さんのような本当のエリートが、我々の前を照らしつづけて欲しいものだと思う。
新潮 2014年 06月号 [雑誌]

新潮 2014年 06月号 [雑誌]